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八戸(2) -- 出港:下手なパイロット


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八戸の出港は私たちには大変残念でした。
たぶん帆船の出港を見にきた沢山の人々にとっても残念だったと思います。

船では水先案内人(パイロット)が乗ったときは、その権限は船長より上になります。
(しかし、事故などを起こしたときの責任は船長にあるのですヨ。)
外国船が日本の港に入港するときには、必ずパイロットを乗せなければなりません。
ところが、日本船の場合の多くは港ごとに決められています。
過去に何回以上入港経験があればパイロットは不要・・・などなどです。

このときの日本丸の船長は、神戸や東京ではパイロットを乗せなくても良い資格はあったのですが、安全のためすべての港でパイロットを取りました。
パイロットは確かにその港のベテランですし、彼らはすべて船長経験者ですし、いろいろな船にも乗り組んでいるのでしょうが、帆船の経験はさすがに少ないと思うのです。

このときの八戸のパイロットは、「安全」ということを第一に考えていたのでしょう。
タグボート2台を使って日本丸を岸壁から引き離し、延々と500m以上も離れてからようやく登檣礼を許可しました。
私たちは岸壁から30m程度離れたときからマストに登るスタンバイをしていました。
各マストオフィサーも同じだったと思います。みんな命令を待っていたのです。
このとき風は岸壁から吹いていましたから、近くでしないと声が届かないとも思いました。

なのに岸壁の人々が砂粒のようになるまで離れてからだと・・・
無理だとは思いつつ、私たちは大声で(なかば、やけくそで)「ごきげんよう」と八戸に別れを告げたのです。
このときになって初めて、むつのパイロットは上手だったんだなぁと思いました。

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