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むつ(3) -- 初めての登檣礼


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むつを出港するときがやってきました。
帆船の出港といえば「登檣礼(とうしょうれい)」ですよね。

私が初めて登檣礼というのを見たのは、私が中学生のとき、大阪の南港にきた海王丸の出港時です。
大学に入ってからは、神戸や大阪に帆船が入るたびにその出港は見送っていました。

見送っている側がどれだけ感動しているかは知っていたので、自分がする側になったとき、同じように感動させられるかちょっと不安はありました。東京港で初めて登檣礼をする前に(港外で)練習をしたときには、「なんだ、練習するんだぁ。突然本番ではないんだ。」と少し安心しました。
そして、東京港出港。初めての登檣礼。「結構冷静に出来るんだな」というのが私の第一印象でした。

でもそれは、私が神戸や大阪や横浜や東京の(よく見慣れているため見る側に感動の少ない、悪く言うと都会人特有のちょっと冷めた(?))登檣礼しか知らないから、それと同じものを外と内で経験しただけなので、案外冷静だったのかもしれません。
むつでの登檣礼は違いました。こんな登檣礼もあるんだと「ゾクッ!」ときました。

まず、これは本当はずいぶんとあとになってからあらためて気付いたのですが、岸壁からの距離が適切だったこと。
そして、何より、私が知っている登檣礼と決定的に違っていたのは「拍手」でした。

登檣礼はそのとき乗り組んでいる実習生の数にもよりますが、少なくともロイヤルに左右各1人の計2人、それ以外のヤードには左右2人の計4人は配置します。
バウスプリットにも3〜4人配置します。
このとき私はミズンのロイヤルだったのですが、マストを登り出したときにすでに拍手がおこりました。
拍手の中でマストに登るのは大変気持ちがいいものです。

そして、バウの一番上に位置した実習生が、船の船尾側に向き直ったときからが本番です。彼がすべての号令をかけるのです。

登檣礼
号令に合わせてシュラウド(縄ばしご)を登る
(上から2番目が多分ワタクシ。これは神戸港)
まず最初に「だ〜っつぼ〜う」。この号令で帽子を取り胸にあてます。
これはあまり聞こえていないのかもしれません。
私が聞く立場だったときも、あまり気にはかけていませんでした。
そして、号令「ごっきげんよおぉ〜」に続いて、全員で「ごっきげんよおぉ〜」。
このとき、腕を伸ばし帽子を高く上げます。
これを3回繰り返すのです。

そのたびに拍手です。こんなことは初めてでした。
(登檣礼を)しているほうが感動しました。
最後は「ちゃっくぼ〜う」で帽子をかぶっておわりです。

各港での登檣礼のことは、今でもすべて鮮明に覚えています。
このむつのときのようにすばらしいのも、そうでないのも・・・

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