・それぞれの浸入 その5・
「不慣れなこと任して悪かったな。でも正直おまえに持ち上げられんのこそばかったよ。でもありがとよ。」
俺の性格を汲んでか、友実はスピーチに対する評価はしてこなかった。色々な意味を含んでいそうな笑みをこぼし、友実は握手を求めてきた。
「お礼を言うのはこっちだろ。じゃあまたな。」
俺は二次会に誘われたが、言葉少なに友実の手を握り、けむたい顔をして家路についた。
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有村に肩をもんでもらっている間、少し昔を思い出した。
「おい、もう十分だ。ありがとよ。」
「あ、はい。」
有村は肩モミをやめ、俺との間に人半分ほどのスペースをあけ湯に浸かった。
再度沈黙が辺りに漂う。こういった静かな時間もいいな。こいつらに聞きたいことは出てきてはいるが、無理に喋る必要はない。このまま浸かって帰るのもアリだろう。
「それにしてもこの辺もうすぐ寒くなってくるよな。ここ凍ったりするのかな。」
琴町が小学生のような疑問を打ち明けた。
「温泉だぞ?次から次に湧き出てくるんだ。凍るわけないだろ。」
巧が冷静に諭す。
「でも正直冬になったらここどうなるんですかね。」
有村が俺を見た。何にやけてんだ。
「入りたい奴は入ればいい。俺はきてるよ。」
四の五の言うのはやめだ。俺らしくやるって決めたんだから。
「ほんとすか。じゃあかなり武装しないと風邪ひくどころじゃすまないな。」
琴町が言いながらなぜか身体に力を入れた。
「おまえバカか。」
巧だ。俺はもう何も言わない。
「俺の五右衛門風呂もほぼ毎日、疲れてる中で沸かすのもね〜。あれかなり疲れますしね。」
有村が独り言のように言った。
「歩くのしんどかったら俺は使うよ?いいだろ?」
琴町が足をマッサージしながら話す。
「構わないですよ。その後俺も入るし。」
有村が嬉しそうだ。
「じゃあ手伝えよ。」
琴町が無邪気に言った。
「もううるさいな。準備したのが誰でも入りたかったら入ればいいじゃねぇか。」
巧が叱咤した。それを遮る様に俺が言う。
「おいおまえら。ここの場所どの辺だか判るか?」
唐突な俺に全員びっくりしたようだが、気にせず続けた。
「俺たちのいる宿舎の裏手をちょっと進んだらがけがあるのは知ってるな?その上あたりだ。」
俺は宿舎のほうを指差しながら説明した。
「じゃあかなり遠回りしてきてるって事ですか。」
琴町がだるそうに答える。
「そのとおりだ。ところで崖を上ったらいけないなんて話あるか?」
俺は3人に問うた。
「ないっす。」
3人は同時に答えた。
「じゃあ近道を作ればいいじゃねぇか。」
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