・それぞれの浸入 その1・

 その日の終業後、
達中は一人で温泉に来ていた。
 今日の出来事を思い返すにはぴったりの場所だろう。達中は肩まで浸かりながら、仕事中から抱えていた自分の中の葛藤に挑んでいた。
「ん・・・。あぁ・・・。」
 
整理をし始めようにもいまいち踏ん切りがつかない自分に苛立ち始め、温泉のお湯で顔を拭った。
「何・・・な・・あぁ!?」
 
言葉もままならない。俺は実にここまで悩んだ事はなかった。今まで自分の欲望の為だけにと、その欲と無関係な物を切り離して生きて来た。考えようとすればするほど、どっちに向けばいいかわからなくなる。
「何を迷うことがある。今まで俺は俺の思い通りにやってきたんだ。これからもそれでいいじゃないか。確かに里村というとおり、人との関わり合いって奴をちょっとでも考えれれば、もっとやりやすくはなるだろう。いつだったか、
『一人で生きていけばいいじゃねーか。おまえみたいな奴は』
って言われたような記憶がある。そん時は暴れちまったんだよな。」
 
達中は肩まで浸かり、手を頭に置き、自分を責めたり自分を正したりしながら、湯気でぼんやりとした風景の上目を視点を定めずに眺め、呟いた。
 自分にマイナスになる事や、自分が出す矛盾なんてものは、時には強引にかき消し続けた結果、それがさも当然のように日々を経過していっていた。人から受ける情に対しても実に冷ややかなものだった。
「つーかよ。俺頼んだじゃねーか。俺には無理だからって。この役目は里村と大隈に任せたじゃねーか。悩むことはねぇよ。そうだそうだ。・・・・・・・・・・。だがあいつらだったら・・・。」
 
そんな事を考えていた時だった。茂みの向こう、いつもこの温泉に来る方向から物音や話し声が聞こえてきた。いやもう、明らかにまずい。
「あれ?親方じゃないすか?」
 
有村達がタイミング悪く現れた。気を使われそうな予感をビシビシ感じながら、自分の意志に反し、己の在り方にケリを付けるときが来たようだ。

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