・たまにゃ背伸びも実を結ぶ その9・
京都2日目。昨日と今日の朝で、満足感を得られた俺は、金閣寺だけでまったりとその日の自由行動の時間を堪能した。俺はそれで十分だった。本音を言えば、もう一度庭園に佇む大塚さんを見たかったが、いるかもわからなければ、さすがにもう遠くから見てばっかりじゃストーカーになるだろう。
2日目の夜になった。食堂でおあずけ状態になりながら学年主任の話が始まった。
どうやら、うちの不良と京都の不良がいざこざを起こしたようだ。なんでもうちの不良が、律儀に金閣寺で入場の順番待ちをしていると、後ろにいた奴にこずかれたそうだ。そりゃだれだっていきなり後ろから叩かれたら、イラっとするけどそこは不良だ。入り口を破壊するまで発展したらしい。俺が平和に溶け込んでる時に、外ではえらい出来事が繰り広げられていた。
普通ならこんな事件があれば、学年ごと強制送還になり得るんだろうが、厳重注意ですんだようだ。だが明日の個人行動は禁止になってしまった。
そして昨日並みの豪勢な夕食を済まし部屋に戻った。部屋のテレビになぜか衛星が搭載されていた。チャンネルをいじくってる阿藤。
「おー!サッカーやってる。」
どうやらタイミングよく、阿藤お気に入りのサッカー選手が縦横無尽に走り回ってるようだ。無論俺は興味なく知りもしない。他の班のメンバーで盛り上がっている。毎晩毎晩うるさいなぁとテレビに俺は目をやった。
「おぉ。」
ちょうどゴールが決まったところだった。確かにかっこいい。こいつらが騒ぐのもわかる気がする。
そろそろ風呂はいろうかな。準備を始めた。
「だけど混んでたら後にしよう。」
そして浴場へ向かった。
ガラガラガラ・・・・・
脱衣所につき服を脱いで中に入る。そんなに混んでないなと思いつつ体を洗った。そして結構広い湯船へ。やはり先客はちらほらいる。俺は湯船に浸かりながら今日の自由時間全てを、金閣寺に費やしてしまったことに少し後悔していた。
「結局何時間いたんだ?あそこに。」
俺は今日の思い出を思い返していた。昼飯まではクラスで侍の歴史巡り。かの有名な侍集団が、しのぎを削っていた舞台と、革命児達が散った場所。ここはもう一回来たいと思った。そして昼飯を食い、そこからバスで金閣寺へ。なんだかんだいって4,5時間いたんだな。
「明日は最終日か・・。」
俺は自分の意思に反して呟いていた。明日の予定ってなんだっけ。
さっさとお湯から出て速攻で部屋に戻り、しおりをみた。
8:30〜9:00 朝食
9:00〜9:30 移動
9:30〜12:00 平安神宮見学
12:00〜13:00 昼食
13:00〜15:00 自由時間
15:00〜 帰郷
「明日は一日平安神宮か。」
初日に行った所だが、明日は自由に行動できない。
「あ、でも間違いなく大塚さんもここにいるって事だよな。」
布団に仰向けになって試行錯誤してる俺に、音もなく阿藤は近づき声をかけてきた。
「何見入ってんの?」
しおりを覗き込むように見る阿藤。
「明日どうしようかと思ってさ。」
俺は振り向きもせず答えた。
「あぁ自由行動じゃなくなったもんな。どうすっか。」
阿藤も同じように悩みだした。どうすっかの意味がわからない。
「ずっと団体行動なんだろ?」
当然かのように俺は言ってやった。
「それはないだろー。とりあえず平安神宮には皆で行って、中で自由にはなるんじゃねーかな。」
高校3年にもなって男二人でしおりを覗き込んでいる。
「あ、なるほどな。じゃあもしそうだったら神苑て所いってみろよ。彼女さんとさ。」
俺はしおりをたたみかばんに直した。
「あぁ。それしかなさそうだな。」
阿藤は予習を欠かしていなかった。どこでかは知らないが平安神宮のパンフレットを出してきていた。
話に夢中になっていると、消灯時間が近づいた。昨日とは違い全員が各々の布団で静かにしだしている。俺は阿藤が離れてすぐ寝に入った。
最終日の朝が来て、朝食を済ませた面々は平安神宮に向かうバスに乗り込んでいた。今日帰るバスもこれ。
阿藤の言ったとおり、門をくぐれば自由になっていた。学年全員に、普通の観光客も合わせて大混雑になるかとおもっていたが、平安神宮の広さはそれを感じさせなかった。
「ここにいよ。」
庭園の一角に俺は腰を下ろし、風景を堪能していた。学年主任のお灸とも取れる話しが終わってから、一気に生徒全員が神苑に向かったのだ。大塚さんもそうかもしれないが、あの勢いに俺は行く気にならなかった。
あっという間に昼飯の時間になり、近くの公園で学校が用意した弁当を食べることになった。一緒に飯を食う勇気も無く、俺は一人で堪能した。
昼休憩の時間も終わり、点呼を取って再度全員でぞろぞろと平安神宮へ戻った。そして中に入ってまたクラスごとに座らされる。仕方の無いことだがめんどくさい。
自由になってから俺は、ちょっと間を空けて神苑に向かった。