・たまにゃ背伸びも実を結ぶ その8・

 清水の舞台からの写真だけとって、清水寺を出た。そして長い下り坂を下り、バス停にたどり着いた。お目当てのバスはもう見えているのだが、渋滞が邪魔して一行に進んでこない。
「こりゃ歩いたほうが早そうだな。」
 俺は平安神宮に向かって歩き出した。
 
 思ったより早く着き、俺は
正面玄関までの長い道をさっさと歩いた。その途中には人力車を進める人々がいた。真っ黒だな。
「おわー。」
 立派な玄関を抜けるとただっぴろく、壮観な庭園が目の前に広がった。清水寺の時からそうだが、見るもの全てが新しく気付くと色々なところに目をやっていた。地元で見飽きたはずの木も、環境が変わると立派に見えた。
 さらに進んでいくと本殿が見え、そこから左手に行くと神苑と書かれた場所に出た。ここは有料らしい。
「初日からあんま金使うのもな・・。まぁでも無くなる事はないだろう。なんにせよここまではいなかったんだから、せっかくだし。」
 神聖な所なんだろうが、俺が入る理由は実に不純だ。
 庭園の入り口を抜けた。とてもひんやりしている。地元じゃ汚く見えるコケが妙に美しく見えた。手入れをすればここまでなるのか?そしてなぜか、路面電車がここにいる。
「・・・・・。あっ。」
 川を渡ると、木々の隙間から光が射す情景を見渡しながら、大塚さんは立って写生をしていた。
「・・・・・。」
 いざとなるとどうしたらいいかわからない。
「邪魔はしないほうが良いな。」
 時計を見ると集合時間まであと少しだった。行動
しだしたのが昼前だったし当然か。大塚さんも帰る準備をしだしていた。俺は大塚さんの視線に入らないように出口に向かった。


 平安神宮からホテルまではとても歩いてでは間に合わないので、俺はしぶしぶバスで戻ることにした。
 ホテルに着き、阿藤と顔をあわせ、夕食を食べながらどこか達成感を感じていた。俺は向かいでもくもくと豪勢な料理を堪能してる阿藤を見た。
「・・・・・。」

だれも取りはしないのに必死に料理をかきこむ阿藤は何か言い出した。
「☆Эй※$Щй¶」
 何言ってんだこいつは。
確かに実家じゃ滅多に食えそうも無い物が並んでいる。食べ物口いっぱいで喋んなってよ。それはさて置き、なんだか今後、同じようなことをする人に会いそうだ。
「広い風呂は最高だな。」
 
食事を堪能した俺と阿藤は、風呂に入り、部屋へ戻った。それぞれ布団を敷きだし、寝る体勢に入った。一部屋5人だ。むさくるしく、はしゃぎ始めた同級生を尻目に俺は寝付こうとした。同級生の投げた枕が俺にジャストミートしようが相手にしない。勝手に先生に怒られろ。ぶつけてきたのは阿藤だった。もう寝よう。


 翌朝、一人歯を磨いてると、なんとも言えない女性が近づいてきた。大塚さんだと気付くのに手間取ってしまった。
「おはよう。」
 
大塚さんはそういうと歯ブラシに歯磨き粉をつけ磨き始めた。髪の毛はいつもの名残りはあるが、ぼさぼさくしゃくしゃ。眼鏡をかけている。あっけにとられるのをたしなめながら、俺は返事した。
「あ、おはよう。」
 そして俺は
泡だらけだった口をゆすぎ、さっぱりしてから切り出した、
「大塚さんこっち来てからも絵書いてる?」
 平常心を取り戻し早速質問した。昨日見ていたわけだが、そんな事言えるわけが無い。
「うん。地元に飽きてたからちょうどよかった。」
 
大塚さんは口をゆすいだ後、いかにも寝起きといった顔で答えた。
「そうだね。どこ見ても同じような風景だもんな。ところでいつ頃から書いてるの?」
 俺は大塚さんの素の部分を見たからだろうか、いつもより会話が弾んだ。
「小学校の真ん中あたりからかな。ここまで続くとは思わなかったけど。」
 
大塚さんは髪を直しながらそう言った。
「そうなのか。じゃあだいぶ上手いんだろうね。」
 やることがなくなった俺は、なんとか会話を途切れさせないように、やったことも無い髪のセットをし始めた。
「そんなことないわ。あんな特徴の無い絵、誰にだって描ける。」
 どんなのか当然見たこと無いが、それより自分に厳しい人間を見て俺は小さくなった。
「自分で描いてるから、そう見えるだけじゃないの?ま、絵の事わかってない俺言うのもなんだけど。」
 俺は
よく言えばはにかみ、悪く言えばにやつきながらありきたりなフォローを試みた。
「うん。そう考えるようにするわ。そろそろご飯ね。」
 
朝日が目に沁みた。
 
朝食は夕食に比べれば当然質素だ。だけどとてもおいしそうにみえる。後は納豆があればと俺は贅沢を極めた。

                        ←back Θindex next⇒
                                                Ξ.home