・たまにゃ背伸びも実を結ぶ その7・

 トイレから出てきた阿藤がボタンを押した。
「ごち。」
 阿藤は
それだけ言ってバスに戻った。俺はその後すぐ、阿藤と違う炭酸飲料を買ってバスに戻った。
「悪いな。」
 
阿藤は既に背もたれを倒し、眠そうな顔で俺にあやまった。
「おう。あとでちょっとちょーだい。」
 
今までの礼・・・というより、いつもこんな感じなので特に気にもしない。
 
そして二人して、かなりの間があいた二度寝に入った。
 
バスは一路京都へ。


 そしてまた数時間がたち、バスは京都のホテル前についた。
「全員揃ったかー?各班の班長点呼とって、担任の先生に知らせなさい。」
 
学年主任の指示でそろそろと動き出す。
 
俺の班は5人。出席番号順のため、阿藤と俺は同じ班だ。そして班長は出席番号一番ということで、阿藤。
「全員いる?これかかなきゃだめなんだな。」
 
阿藤は点呼表みたいなものを覗き込んだ。
「じゃあ一応点呼取るな。まず俺と・・・・有村」
 
俺は無言で手を上げた。後ろに大塚さんがいたからだ。
「あとは、井村、有働、遠藤はいる?」
 
残りの点呼を終え、阿藤は点呼表を担任に提出しに言った。その瞬間に後ろを振り返ってみたが、もう大塚さんはいなかった。というより人混みに混ざってしまったようだ。
「もう好きにしていいってよ。」
 
阿藤が担任の伝言を班の人間に伝えた。その声で散り散りになる。残った俺はバス停に向かおうとした。
「じゃあまた夜ホテルでな。集合6時にここだから。遅れたら飯抜きだってよ。」
 
それだけ言い残し、阿藤は彼女とバス停に消えていった。


「どうしようかな。」
 当然一人の俺は市内マップのような物を覗き込み、行き先を決めようとしていた。
「ややこしいな。」
 広い市内にいろんな名所が点在しているため、バス路線も複数の系統に別れ、名所名所を繋いでいた。乗り継がなきゃいけないところもあり、俺はどんどん行き先をパスしていった。
「特に行きたいところもないけど、いつまでもここにいちゃなぁ。」

 しおりやら地図を眺めていると
清水寺が目に入った。もらった地図上では南東に位置する。地図の右上から左下に向けて線を引き、その線で折ると清水寺とほぼ重なる所に金閣寺がある。そっから西方面に行くと龍安寺という寺もあるらしい。
「聞いたことないな。」
 龍安寺は蓮や睡蓮がキレイだとしおりにも書いてあるけど、蓮は咲き時を過ぎてるようだ。こういうのを写真に撮るとお袋は喜ぶのかな?まぁいいや。どうせ清水寺で一日を過ごしそうだ。
「やっぱこれが一番疲れる。」
 
バスで清水寺前についた。道もバス内も混みすぎ。
 
そのバス停前から少し奥に入っていくと、見事に京都の町といった建物や石畳の道が広がり、長い長い坂が待っていた。夏もとうに過ぎ、暑さも落ち着いてるしそんなに疲れない。途中で甚平を買った。俺のお土産。
「おぉ・・・・・。」
 坂を上りきると、赤くどでかい門が現れた。ものすごい立派だ。その門をくぐり抜け、進んでいくと回りには幾つものお堂があったり塔があったりする。他の寺と比べることは出来ないが、ここに来てよかったのかもしれない。そして遠めでそれらの建物を見物し、二つ目の門をくぐり、お金を払って本堂
に入った。
「いかん。居心地が良すぎる。」
 有名らしい清水の舞台より、その手前の本堂で落ち着いてしまった。後ろを振り向けば、舞台やらが見える筈だが、今は人しか見えない。薄暗い本堂の中を見ると名前も知らない仏像が立っている。そんな中、落ち着いたら落ち着いたで俺の頭をよぎったのは大塚さんの存在だった。
「今どこで何してんのかな?絵は多分描いてんだろうけど。」
 俺は大塚さんと初めて会った時のことを思い出していた。
「描くとしたらなんなんだろ。学校で見る限りは風景ばっかだった気がするけど、良さそうな風景なんていい出したらどこにでもあるよな。」
 途方も無い事に気付いた俺は、考えるのをやめた。そうしていると、俺は地図としおりを取り出していた。
「なんかヒントは・・・。」
 俺には知識も教養もへった暮れも無い。悩むだけ無駄だった。しかし時計を見ると集合時間まで中途半端に時間が残っていた。
「いいや。近くてよさそうな所・・・。」
 平安神宮を選んでいた。理由はここから近いって事だけだ。ただしおりに庭園があると載ってたのでちょっとした期待は抱いている。

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