・たまにゃ背伸びも実を結ぶ その6・

 修学旅行の朝だ。
 
集合時間は朝の8時。今は6時半。駅まで歩いて1時間ちょい。すぐでればのんびり歩いても余裕で間に合う。
「あ・・・。」
 そうだ。準備まだしてない。特にもってくもんなんてないから、朝に回したんだった。2泊3日だから下着の替え2枚と、靴下と・・・・・。ホテルで洗ったりしていいのかな。いいんだったらこれだけでいいな。いつものかばんは空っぽで良いな。
「いってきます。」
 朝飯は食わず、顔を洗って
家を出た。時間は6時45分。お袋の声が聞こえる。
「ちょっと洋平!あんた忘れてるわよ!」
 
何言ってんだ。全部揃って・・・・・あららら。しおりと以前学校で配られた、京都の一日乗り放題バスチケットを忘れてる。
「あ、ごめん。ありがとう。」
 
お袋から受け取ると、あたしも起きてよかったわよって顔をしつつさらに口を開く。
「あんたほんとに何しに行くのよ。」
 学校の行事で旅行に行くのに、かばんが空っぽなんてありえないよな。何に対してかわからないが、朝から気分悪い。
 
通学路とは違う畦道を歩きながら、駅を目指す。
 
毎朝の通学となんらかわりない、俺にとって朝っぱらからの1時間に及ぶ徒歩はなんの苦痛にもならない。ほらもう駅だ。
 
こんな時間に駅に来るのは初めてだ。いつもなら通勤・通学でせかせか動いてる人は、山のようにいるんだろう。だが今日は百数十人がもう広場に腰を下ろしている。京都まで運んでくれるバスももう到着を済ましていた。
「おう阿藤。」
 
各クラス出席番号順に学年主任の発声を待っていた。俺の前に陣取るバカはから揚げパンを見逃したあのバカだ。
「よう有村。歩いてきたの?」
 
阿藤はいつも通りの顔で聞いてきた。田舎だって言っても、駅に向かうバスは出勤時間に合わせて、多めに運行している。ほとんどの生徒はそれを利用してきたようだ。
「だってバス停まで歩いて20分かかるんだぞ。どうせ混むなら歩くほうがいいよ。」
 
俺は人混みが大嫌いだ。
「学校に行くならまだしも、駅に向かうなら道の途中にあんじゃん。」
 阿藤はまるで親のように指摘してきた。

「あぁ忘れてたよ。」
 
だけど俺は俺だしといった気持ちで阿藤にお答えした。
「あーそぅ。」
 俺との
挨拶もそこそこに、阿藤は同じクラスの彼女の所に向かった。そろそろ怒られる時間じゃねーの?
 
そういえば大塚さんは・・・?何組だっけ。あぁそうだ3組だから隣・・・・・。だけど名前近いからすぐ後ろぐらいにいるんじゃないのか?だめだ。振り向けない。そうこうしているうちに学年主任の口が開いた。
「えー、それでは今日から3日間、京都での修学旅行に入ります。遊びまわりたい気持ちもわかるが、一応授業の一環だ。常識をわきまえて、毎日行動するように。古都に興味がある者も、無い者も自分らなりに堪能しなさい。あぁそうだ。向こうにいる間は、基本的に日中全て自由行動にしてあるが、暴走は自粛しろよ。」
 
俺には関係の無い話だ。学年主任の話しそこそこに全員がバスに乗り込む。
 
車中、隣は阿藤だった。うちのクラスは比較的おとなしいんじゃないだろうか。だれも特に、騒ごうとはしない。バス内のテレビには洋画が流れていた。誰でも知ってるぐらいの有名な奴。ちゃんとみれば最後は泣けるんだろうな。だけど俺も阿藤も爆睡していた。


 数時間たった頃、サービスエリアで休憩になった。起きた時にはやってた映画が途中で消され、テレビが引っ込んだ。それに不満を漏らすクラスメートもちょいちょい。
「あ゛〜。背もたれ倒して寝ればよかった。」
 無理やり起こされた感も手伝って、
寝起きの開口一番で阿藤は愚痴を漏らした。これには俺も同感。全くバカな事をしたもんだ。
「なぁ有村。おまえトイレどうすんの?」
 
かがみながら左目をぐりぐりしている阿藤が聞いてきた。
「俺別にいいよ。」
 俺はもういつでも寝れるトーンで答えた。
だが俺は通路側。
「じゃあ俺行って来るよ。」
 阿藤は
俺が作った隙間から、のそのそとバス外に出て行った。出てからを目で追ったわけでわないが、自然に窓の外を見る。
「あー飲み物あいつに頼めばよかった。」
 
一口含んで俺は二度寝に入りたかった。そんな準備もできてない。
「ん〜。買いに行こうかなぁ。炭酸飲みたい。よ〜し。」
 
おれものそのそと動き出した。自動販売機の位置は窓から見えていたので容易に辿り着くことができた。その間無意識に大塚さんを探した。だが見つからず。
「色々あるなぁ。」
 
お金を入れてから悩んでると・・・・・。
「俺これにしよ。」

                      ←back Θindex next⇒
                                                   Ξ.home