・たまにゃ背伸びも実を結ぶ その3・

「また暇つぶしか?」
 
俺はいつもどおり聞いた。
「俺、今日彼女できたんだ。さっきもその子を家まで送るために迎えにいっててさ。」
 
それでも俺のことまで考えてるのか。しょうもないのは俺か。さらに友人を祝福するという物は残念ながら出てこなかった。
「その子と一緒じゃなくていいのか?」 
「あの子もおまえの事知ってるぞ。わかってくれたよ。誰でもやれば出来る事があるなんて誰でも知ってることだろ?それを身近で感じれて、その役に立てれるなんておもしろいよな。」
 表情は見えないが、ただひたすら自転車をこぎ続ける阿藤は続けた。
「おまえのせいでこんなくさい事・・・。まぁいい。それより俺の彼女に聞けば、あの子の名前も簡単にわかる。だけどそれはおまえがやれ。俺はお人好しじゃないからな。」

俺は友人の肩を叩いて答えた。


 もう時間は日が沈む手前になっていた。店に着くと、俺は何気なく入っていった。そしてすぐにでた。
「おいどうしたんだ。ひやかしにもならないだろうが。」
 
入り口で待っていた友人が俺に言った。
「はぁ・・。」
 俺はため息をつき、かがみこんだ。そして目の前にあった、店外販売用のラックの下の金属の棒を掴む。一気に汗が吹き出たせいで、手の後がついた。
「あ・・・いたのか。つーかよくよく考えれば、用品店なんてここぐらいにしかないもんな。それにしてもタイミングばっちりだなぁ。」

余裕のある阿藤は得意げな顔を見せた。
「いないと踏んでたんだろうが・・・・。」
 
友人は俺を立たせると顔で行けと合図を出した。
 俺は店内に入り、並んでるものを理解するのに必死になりながら、徐々に近づいていった。しかし見たこともないものも多い。彼女は筆やペンが並んでいる棚の前にいた。俺はその裏側に到達していた。よし平常心だ。グルッと彼女側の棚に回りこみ、そして俺は彼女の目の前にある筆を取ろうとした。
「ちょっとすいません。」
 
彼女は無言でスペースを空ける。その際彼女の顔がちょっと見えた。
 
ここで何もわからない俺は質問をすることで話すチャンスを得ようと考えていた。
「しっかし、質問しようにもこれはなんなんだ?これぐらい判ってないと変なのかな。クレヨンとかで塗ったときに押し伸ばす手法とかがあってそれに使う奴か?」
 
考えてもわからない物を考えてるうちに、彼女の方を向いて聞く聞かないとかしてるうちに、彼女は別の所へいってしまっていた。すっといけるような強靭な精神力が俺にあるはずがない。
 
次に彼女は絵の具が大量に並ぶ棚で物色していた。
「えーっと青は・・・」
 
俺は独り言を発しながら彼女に近づいた。絵の具の棚は向かい合うように置かれているため、今は俺の背後近くに彼女はいる。俺は息をのんだ。
「あのすいません。」
 
俺はやっと彼女に声をかけた。しかし彼女は自分が呼ばれたものだと気付かず、横に一歩どいただけだった。俺は気付いていただけるように声をかけた。
「あのすいません。」

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