・たまにゃ背伸びも実を結ぶ その1・

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「有村、パン買いに行こうぜ。」
 午前中の授業が終わり、阿藤
と昼の休憩時間に学食へ向かった。気付けばもう高校の3年になっており、周りの慌ただしさは、徐々にではあるが肌で感じていた。
「もう混んでるんだろうなー。」
 学食に向かう途中、校内において町を見下ろすことのできる場所で、どこのクラスかわからないが、女性が絵を描いていた。
「あぁもうすっげーな。」
 
学食に着くと、パンやら食券を買うスペースにはもう既に人間がごった返していた。不本意だけど、俺と阿藤は順番を待つことなく強引に分け入った。そして運良く最前列にまで進み、人ゴミの中できれいに並べられているパンに眼をやる。
「から揚げパンないみたいだな。」
 
友人ががっかりした顔で頭を掻く。とても楽しみにしていたようだ。だが無いならこんな戦場のような所で迷っている時間はない。俺は阿藤に無理やり適当なパンを買わせた。そして押し出されるようにこの場を後にし、空いてる席に着いた。
「明日一個早い休み時間にでも買いに来れば?」
 
俺は適当に買ったパンを、友人も見ずほおばった
「それしかないよなぁ。それにしてもおまえにはこだわりみたいなもんがなくていいよな。」
 諦めきれない様子を見せた阿藤だったが、俺には全く伝わらない。

「あー・・・。なんつーか。別に食えたらいいじゃねーか。昼飯なんて。」
 
一緒に買ったコーヒー牛乳で流し込んでから俺は答えた。
「全く、何に楽しみを見出せるんだ。こいつは。ある意味その性格、たまに羨ましくなるけど、無頓着すぎるだろう。っっとによ。」
 久々に爆発した阿藤の心配をよそに、昼飯をそそくさと終わらせ、
不満気な友人と共に立ち上がって、教室へ向かった。
 その道中、当然来た道と同じ道を戻るのだが、同じ場所にさっきの女性はいた。あたりは昼飯時ということもあってかなり騒がしかったが、そんなことはお構い無しに絵に没頭し続けている。そんな彼女に俺は目を奪われていた。
 歩きながら、俺のちょっとした変化に気付いたのか、友人も隣にいたままだった。しかし俺はふと我に帰り友人を連れて教室へ戻った。俺の頭の中に彼女の印象が鮮明に残った。
「あの子名前なんていうのかな。」
 
そろそろ授業再開のチャイムが鳴ろうかという時に、俺は準備もせず無意識に呟いていた。そしてそれを、きっちり準備を始めていた友人が聞き取っていた。
「あぁ。知らないな。何組だろうな。」
 
友人は茶化す様子もなく真剣に返事をしてくれた。
「・・・。ま、話す機会もないだろうし、いいよ。サンキュ。」
 
俺はいつもの調子で話しをなかったことにした。
「相変わらず早いな。」
 
俺の事を良く知る阿藤は、感情の変化をまったく見せずつっこんできた。俺に恋が芽生えても、燃えることはない。
「あぁ退屈だ。」
 
興味惹かれそうなことが身近に迫っているのに何も動こうとせず、結局は縁がないと勝手な解釈で闇に葬った後、毎度全く身勝手な言葉で締めくくっていた。そしてそろそろ午後の授業が始まる。


 キーン・コーン・カーン・コーン・・・ キーン・コーン・カーン・コーン・・・
  
 
放課後になった。一日が終わるとあとは家に帰るだけ。なんとなく今日は違い、遠回りになる校門から帰ることにした。俺にとってはそれだけでも格好の暇潰しだ。
 
校門を出て、家へ帰る方へと曲がると、昼休みに出会った女の子がいた。今は絵を書く道具をもってないようだ。
「それにしてもなんであんなちょっとした隙間から、ほんのちょっと雑草が生えてるだけの殺風景な壁見てるのかな。」
 俺は心の中でそう呟き、ただ通り過ぎるだけの一歩を踏み出そうとしていた。だがいっこうに出る気配もなく、校門の影で無駄な時間を過ごしていた。そうしているうちに阿藤が俺に追いついてきた。
「おまえこんなとこで何やってんの?」
 
接近に気付かなかった俺はびっくりして声を上げていた。彼女には聞こえてないようだ。
「び・びくぅ!ってなってたよ。おまえ何に珍しく夢中になってんだ。」
 
けらけら笑いながら俺の肩を叩く阿藤。俺は呼吸を整えるのに必死だった。
「あ、あの子じゃないか。」
 阿藤は
眼の端で確認しながら言った。ひどくびっくりしている。
「おまえこんなとこから見てたのか?他の奴だったら先生呼んでんじゃないの?」
 阿藤
が変質者でも見てるかのような顔で言ってるように見えた。ま、実際仕方ない。
「なぁあの子、美術部にでもはいってんのかな。」
 
俺は阿藤の言葉など耳から耳へ素通りさせ、続けた。

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