・死と結束 その5・

 夜は立食スタイルのバーベキュー。
 熊取さんがてきぱき焼いている中、琴町さんがキャンプファイヤーをやりたいと言い出したが、すぐさま里村さんによってたしなめられ凹み始めた。ワイワイやるのと騒ぐのとは全く違う。だけど気持ちは嬉しかった。
 母石と名付けられた墓石にお供え物をし、それぞれ食べ始めた。お供え物の隣には、汗をかいたビールも並べておかれている。母は飲まない人間だったが、喜んでいることだろう。
 祭りの後の静けさも全員を満足させ、笑顔が絶えない。今まで苦労してきた里村さんも大隈さんもやりきった顔をしていた。
 
熊取さんも一仕事終わった後の一杯を堪能している様子。俺は熊取さんが腰を下ろしている隣に、ビールを持ち運びながら座った。
「お疲れ様っす。熊取さん。」
 
俺は未成年だからとかではなく今日も一滴も飲まず、熊取さんが持ってきたものを自分のもののように振舞っていた。
「おうサンキュ。おらーもう10本以上飲んでるな。」
 
作ってる最中から結構空けていた熊取さんが、判りやすく顔を真っ赤にしてにやにやしている。もうあからさまに酔っ払いだ。止めるべきか。
「飲み過ぎじゃないすか?送るとはいえ、結構山道揺れるの・・・。」
 
俺が言いかけた瞬間、熊取さんは結構なスピードで山に入っていった。
「あ〜あ〜。」
 
止めるべきだった。いつの間にかこっちにきてた里村さんが声を上げ、さすりに行った。俺は少し罪悪感を感じながら、熊取さんのほうへ寄っていった。
「すいません。熊取さん。大丈夫ですか?」
 
喋れない熊取さんに代わって里村さんがこう言った。
「おまえに言っとくべきだったな。こいつあんま飲めないんだよ。水持ってきてくれないか?」
 
俺は出来るだけ早く水を探しに行った。実に俺の父親は飲むのかもしれないが、熊取さんみたいになったことはない。酔っ払いの対処法みたいなものがわからないのだ。
 
どれぐらいの量を持っていったら良いかわからなかったが、とにかくうがいできる分は持って行こうという結論に達した。熊取さんが料理していたところに、さっき調理している時に使った水の余りが置いてあった。2ℓのペットボトル、一本丸々残ってる。
「これでいいか。」
 急いで戻った。
「すいません遅くなって。これでいいすか?」
 
俺の到着に振り向いたお二人はあっけにとられていた。
「あれ?どうしました?」
 
多すぎただなんて思いもしない俺もあっけにとられた。
「ま、なんにせよ水だ。ほら熊取。」
 
ペットボトルのふたを開け熊取さんに手渡す里村さん。熊取さんは背筋を伸ばし両手でペットボトルを抱えうがいをしだした。結構余ったな。
「ありがとな。有村。」
 
俺はとてもいい顔で返事をした。
「おまえ断りなさいよ。弱いの忘れてないだろ?」
 
里村さんが呆れた様に言った。
「いや、楽しくてさ。久々だよ。こんなの。」
 
熊取さんはさっきの事を後悔して無いかのように答えた。
「もう大丈夫ですか?」
 俺は酒を好きになれそうに無い。

「あぁもう大丈夫だ。」
 
とにかくまだ具合が悪い熊取さんを連れ、3人でさっき座ってたところに戻り、熊取さんの体調回復を待った。本当に弱いんだな。俺は酒の良し悪しを知らないからかもしれないが、飲みたくなる人の気が知れなかった。

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