・変わり目 その9・

・・・・・・・・。

「今日から入る新人の有村だ。」
 初日の朝、
親方の紹介で頭を下げる。俺はフルネームと年齢だけ伝えた。
「ちゅーす!」
「ちゅーす。」
 
先輩方に挨拶いただいた。その後に、
「みんな宜しくな」
 
里村さんが一言添えた。
「えーわかってるとはおもうが、新人が来たのでもう一度言っておくぞ。」
 
親方が怒ってるようにしか見えない顔(真顔なんだ。ほんとに今となっては損してると思う。)で里村さんに合図をした。里村さんは言われるのが判ってたかのように喋りだした。
「慣れないうちのミスとかはいいんだ。当然だれでもあることだからな。そんなことよりも遅刻だけは許されない。」
 
眉一つ動かさず里村さんが言った。どこでも遅刻はまずいのはわかっているつもりだったが、独特の空気に冷や汗がでる感覚を感じ、肝に銘じておこうと心に誓った。ところで罰ってなんだろう・・・。
「あ、あの罰って・・・。」
 
聞いてみることにした。俺は里村さんに聞いたつもりだったが、親方が口を開く。
「里村。説明してやれ。」

そういった後さっさと仕事に取り掛かってしまった。
「いいか有村。罰は作業員全員の部屋掃除とたまった洗濯。これはいないのを見計らってやらなければいかん。別に打ち合わせと言うか、聞いておくのは構わないぞ。あと洗濯物は言わなくても大丈夫だな?」
 
ここには洗濯機などない。洗濯板と、でか目の桶が俺のいる小屋の横に常備されている。その横にほとんど一杯にはなったことがない洗濯物入れのかごがさらされるようにあり、そしてそれを全部覆うように屋根がある。ぱっと見は寂しい印象だ。これは余談だが、結構自分の事は自分でやる人が揃っているらしい。そして里村さんが続けた。
「さらに事務所の掃除と整理整頓。親方は良く散らかすから大変だぞ。まぁ罰は滅多にないし、結局は自分でやってるようだがな。あれで結構家事はやるんだよなぁ。」
 
もう親方はいなかったが、後半は小声だった。さらに里村さんが重い顔をしながら続ける。
「あとは買出しだ。」
 
空気が本当に止まった気がした。きつい。これはきつそうだ。しかもここまでくるのに山道ばっかりで買出しにできるような店までかなりありそうであるし、しかも気にも留めてなかったからかもしれないが、それらしき物を見た覚えがない。
 実家にいる時も、自分の部屋の掃除さえ滅多にやったことなかったのに・・・。一人立ちすると続々と明るみにでる怠慢。親方と出会った時の軽トラでいくんだろうな。しかしまずいな。俺は免許持ってない。免許持ってないからとかいう理由で許されるはずもないよな。大問題だ。
「相当面食らってるようだな。普段は配達をお願いしてるからいいんだが、その時だけは罪人に行かす事にしてる。もう言わずと分かると思うが、とにかく仕事後の買出しほどハードなものはないだろう。ちなみに今までここにいる人間では琴町だけ経験がある。まぁ、また聞いておけ。教えてくれるかわからんがな。あ、そうだ。おまえ免許ないんだったな。それ関係ないから。」
 
そりゃそうだよな。最後は鬼に見えた里村さんが琴町さんの名前を出したとたん、琴町さんの顔が見る見る青くなり、えづきそうになってる様子が伺えた。シャレにならない様子だ。免許持っててあれなら俺は遅刻なんて絶対に出来ない。

                                     ←back Θindex next⇒
                                              Ξ.home