・変わり目 その4・

 そして歩いて数分ちょっとした時だった。
「ん?なんだ?あれ。」
 
巧さんが何かを見つけた。
「看板・・みたいですね。んっと・・?」
 
俺が内容を読もうとする。
「消えかかっててわけわからんな。」
 
大隈さんが解読を試みようとしていた。
「とりあえず矢印は健在ですしそっちにいってみましょう。」
 
年配者を無視し、ぞろぞろと目的へと向かう。


「ところで琴町と巧は同期だったよな。」
 
道中、突然大隈さんが切り出した。
「そうですね。」
 
巧さんがまたもさらっと答えた。
「といってもまだ半年もたたない。言っても有村とそんなにかわらないけどね。」
 琴町さんが顔を出す。毎日やってる事がそんなに変わらないからこんなこといってんのかな。
「確か、二人一緒にきたんだったよな。ここをどうやって知ったのか知らないが、同級生か?」
 大隈さんが質問を続ける。
「そうですね。ここは学校の先生が教えてくれました。接点はないはずなんですけどね。」
 なぜか照れながら言った
琴町さんがさらに続けた。
「その入った時にね、僕の名前は琴町でこいつの名前は巧。苗字だけであの親方がえらいこいつの事気に入ってね。あん時位じゃないか?親方が嬉しさに声を上ずらせたのは。」
 
たんたんと話しだした琴町さんを見て
「熊の事忘れてんだろうなぁ。この人。」
 
と思った俺だった。親方にもそんな一面が・・なんて思っちゃいない。
「迷惑な話だ。」
 
その話を聞いて巧さんが遮るように言い放ち、表情を変えることなく続けた。
「今となっちゃ言ったことも忘れてんだろ。あの人に関して、いちいち言ってたらきりないって。んでも、俺は見た目の印象よりはいい人だと思う。」
 
親方の話が広がった。
「・・・・。」

俺は自分の感覚と違う先輩の話しに、また少し耳を傾けていた。
「ん〜。確かに両極端で、怖い時が多いけどなぁ。今まであった人間の中ではなんつーか・・。背中押してくれてる方なんじゃない?」
 
琴町さんは場の雰囲気に押され、言い過ぎたかなといった表情を見せた。
「おまえらここに入ってよかったと思うよ。それだけは間違いない。」
 
大隈さんが自信ありげにこういった。
「・・
・・・。」
 ま、俺は俺だ。行こ行こ。


 そうこうしているうちに、二つ目の看板が出てきた。適当だったのに結構すんなりいくもんだな。
「ふ・ろ?」
 
今度ははっきりはしないまでも読めるほどの字だ。俺のだれにでもわかる予想は的中した。しかし何故ひらがな?殴り書きだし。ま、あの親方だし仕方ないか。それにしても、看板て律儀だなぁ。
「その下に矢印がありますね。いってみましょう。」
 
ずんずん進んでいくと、昼間だれかかのタオルから香った、あの独特の匂いがかすかにし始めた。野生の温泉は硫黄くさいのか。
「もうじゃないですか?」
「あぁ・・・熊でなくてよかった。」
 
琴町さんが胸をなでおろす。
「あぁ、覚えてはいたのか。」
 
忘れていたのは俺のほうだった。

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