・空回り その2・
ガラガラガラガラ・・・・・
「よし。その調子だ。」
巧さんが余裕の笑顔でこう言った。なんとも心強い。
「次は左カーブか。」
俺は頭の中で確認した。
「琴町さん!大丈夫ですか!?」
「おう!任せろ!」
仕事になるとあの温泉での一件をかき消すかのような男っぷりをみせる。しかしいまいちつかみ所がないのも事実。
「もう一踏ん張りだー!」
これだもの。琴町さん・・・まだまだあるんですよ。
最初のカーブを抜ければ長い直線だ。長いといっても普通に歩けばそうでもない。この後は親方の気まぐれによってできた、グネグネとした道が続く。
「ぐっ・・・。」
琴町さんのうめきが聞こえた。琴町さんの雄たけびにのんきにツッコんでる間、力を抜いてしまっていた。
「有村。気をつけろよ。」
巧さんの注意にはっとし、力を込めた。さっきは振動により、炭車に並々載せてある石炭がこぼれ落ちてしまった。それが琴町さんにあたってしまったのだ。
「心配すんな。大丈夫だよ。」
以前俺が後ろのとき、二人のおかげで最低限の負担ですんでいたことに俺はまだ気付けてなかった。
「おまえ後でばれないように拾っとけよ。」
琴町さんが笑いながら言った。確かに親方の逆鱗に触れる事には気をつけないと、命は一つだ。
「有村、無理に力いれなくていいけど、抜くようなことはするなよ。バランスが片寄ったら脱線するぞ。」
坂の中腹に来た頃、巧さんのアドバイスが飛ぶ。二人と力加減を確認し合いながらどんどん進んでいった。
「もうちょいだな。」
地上の光が見えてきた。そして一回目の搬送が終わった。
「お疲れ。最初にしちゃ上出来だ。」
巧さんに褒められ俺はいい気になった。
地下に戻り二回目の搬送が始まる。ポジションは全く同じだ。
「よしいこうか。」
二回目だからか俺の気持ちは楽になっていた。順調に炭車は進む。
「がっ!!」
先ほど俺のミスにより石炭を落としたところで、またもや琴町さんのうめきが聞こえた。
「おまえ力はいってんのか?」
巧さんが真剣な眼差しで俺をにらむ。
「疲れたら休めるんだから、もうサボんじゃねーぞ。」
琴町さんからは何も発せられなかった。
その後、3回、4回と俺は疲れては来てたが、その分勝手なペース配分をしながら搬送に望んだ。そして5回目が終わり、周りの変化に対して気にも留めず地下へ戻ろうとした時だった。
「おい。有村。」