・感情の差 その9・
  
 rrrrr・・・・・rrrrr・・・・・


「はい有村です。」
「あ、父さん?俺だけど。」
 
また親父か。俺が実家にいた時は電話とろうとしなかったろう。前回はお袋寝てたから仕方はないけど。
「おう。今日は早いな。」
 時計の針は前と同じぐらいの時間を指している。

「母さんは?」
 
正直母親が出ると思ってた俺はうんざりだった。全く親不孝な話だ。
「ちょっとまってろ。」
 
今日は起きてるようだ。
「はいはい。」
「あ、母さん?」
 
なんだかほっとした。
「あら、元気そうねぇ〜。こないだは寝ててごめんね。」
 
あやまる必要はないのにどこかありがたい。
「いいよ別に。遅かったし、特に体調悪いとかじゃないんだろ?」
 
ちょっと心配はあったのでそのままぶつけた。
「すこぶる元気よ!ただあの日はパートでちょっと疲れちゃって・・・。」
 
お袋はそば屋でパートしている。本人も言うようにとても元気な声は俺を安心させた。
「あ、そっか。あんま無理すんなよ。」
 通ってた高校が山の上で、俺が入院が必要な病気にかかった時、退院後の通学が大変だろうからって車の免許を取ってくれた。その頃からパートはしてたし、家事もこなしてた姿を俺は見ていたが、そのとき疲れを見せようとしない母親にかけてやれなかった言葉を口にした。
 
「ありがとう。お父さんにも言ってあげて。」
 
当然の流れなんだろうが、どこかひっかかった。
「あぁ、機会があったら。」
 
余裕で平静を取り戻し答える。
「じゃあ変わるね。」
 
すっとんきょうな母親にびびる。
「なんでだよ。いいよ、こないだしゃべったし今度で。」
「そうね。タイミングもあるものね。」
 しかし
いつになくマイペースな母親にほっとした俺だった。
「あんた今北海道だって?」
 お袋は
さっきまで何もなかったかのように自分の質問をし始めた。
「あぁ炭鉱でさ、ある人に拾われてお世話になってるんだ。毎日色々あって結構面白いよ。」
 電話だからかもしれないが、母親ともこんなに喋ったのは初めてだ。

「あらそうなの。いいじゃない。よかったわね。熱中できるものが見つかって。ほんとに高校の時のあんたときたら・・・。まぁこっちのことは心配しないでいいから頑張りんさいよ。」
 俺は母親に、漫画みたいに受話器から出てきて、直接言われてるように感じた。

「うん。ありがとう。また長い休みにでも帰れそうだったら帰るよ。それじゃ。」

チン・・。

どこかほんわかとした気持ちのまま部屋に戻り、眠りについた。

                     
                                           ←back Θindex next⇒
                                                  Ξ.home