・感情の差 その6・

 温泉に入って30分。だいぶのぼせ気味になってきた俺と里村さんはそろそろ出ようという空気になった。帰り支度を済ませ、部屋への帰路へついた。そんな中俺はずっと疑問になっていたことを聞いた。
「あ、そうだ・・。里村さん熊見たことあります?」
 
俺は合計4人分の質問を代弁した。
「熊?あるよ。」
「あるんすか。」
 
あまりにもあっさりな答えが返ってきたきたため、俺もあっさりしてしまった。そして逆に聞かれる。
「みてみたいのか?」
「いえ、実は大隈さんとかとここに来た時に熊よけの設備もありますし、ここにでたのかなぁ。っていってたんですよ。」
 俺は
今も見えている物体をちら見しながら聞く。
「熊よけの設・・備?」
 
予想外の表情、そして答えだ。
「いやあの、暖炉みたいなのそうじゃないんですか?」
 
さっきからちらちら見てた物体を指差す。
「あ、あれか?あれはあいつの熱燗を作るためだけの暖炉だよ。何個かあるのはどこに浸かってもすぐ行ける為じゃないか?多分な。」
 
暖炉って物の例えで言っただけなのに。俺たちの勝手な想像で決め付けていただけなのだが、言葉を失ってました。
「いや〜、ほんと寛大というか恐れ知らずというか・・・。」
 
もう俺は何が言いたいのかわからなくなっている。
「だよなぁ。ま、そこがいいんだけどな。」
 
妙に納得してしまった。どこか安心感みたいなのには満たされたが、改めて親方は怖い。絶対に怒らせないようにしよう。
「まぁでも、火をたくことには変わりないですし、いざとなったらね。」
 
俺は今度こそ思い通りの答えが来るだろうとふみながら話した。
「あぁあいつ一匹仕留めたよ。」
 
俺は呼吸が止まった気がした。猟銃で?と思いたかったが違いそうだ。そういえばどこにも見たことないし。先程漂った安心感が増した分や、改めた気持ちの分怖い。畏怖とかじゃなくて、血の気がひいた。
「あいつここに来るときは酒を飲む道具一式と、タオル・着替えぐらいか。残念ながら武器的なものは一切なかったんだよ。」
 
いや〜びっくりした。熊なんて海で言ったら人食いザメ見たいなもんだろ?
 
俺は一種のパニックに陥った。里村さんも俺の気持ちの整理がつくのを待っていてくれてるのだろうか、話を進めない。
「わはははははは。そうなるのも無理もないさ。それにしてもおもしろいなぁ。おまえは。」
 
笑うところじゃないよ。といいたかったが、それどころではない。それよりも里村さんのこの余裕はなんなんだろうか。親方といる事でどこか麻痺しちゃったのか?ようやく喋れるようになった俺は疑問を持ちかけてみた。

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