・感情の差 その2・
「よし押すぞ!」
まず掘り崩された土や使い物にならない石で、一杯になった炭車をベテラン3人で押し始めた。
「大隈!」
「うぃす。」
お手本とばかりに里村さんの合図で、唯一伸びてきている立抗からのスイッチを押し、炭車は動き出した。炭車にライトを照らすと縁すれすれまで入っていた。
「これきついんだよな。」
巧さんがぼやいた。俺は知らないが、たまに大隈さんを交えて巧さんと琴町さんも経験した事はあるらしい。
「もちっと引っ張る力を上げたらいいのに。立抗だけじゃ心許ないから、結構押したりバランスとったりしなきゃいけねーんだよ。」
琴町さんがこう言ったが、なぜそうさせようとしないのかは俺にはわからなかった。なんだかんだ言っても人の負担は軽いからだろうとたかをくくっていた。
そうこういているうちに、3人はまだまだはっきり確認できるぐらいの位置で押すのやめた。
「よしいけ!」
いきなりだった。新人3人で押せといっている。
「見るとやるじゃ違うぞ。」
巧さんによるプレッシャーが飛んできた。
「よ〜し。」
もうまくりきっている袖をまくりながら、琴町さんは意気込んで行った。俺は二人との温度差を感じながら、炭車に近づいていった。
ウィィィ〜ン・・。
里村さんが立抗のスイッチを押すと、立抗と炭車を繋いでいるワイヤーに力が入った。
新人は炭車のサイドと後ろを包むように取り囲む。サイドに先輩二人。後ろに俺が陣取った。ほんの少しずつ軽くなるのを感じながら押し始める。最初は腕の力だけでスムーズだったが、機械でひっぱってるはずなのに、次第に重さがのしかかってきた。もう前は見えない。
「あいつもうかよ。」
「こんなもんでしょ。」
まだ何mも進んでない。野次が飛んできた。明らかに自分の事を言わている。やたら悔しい。
「腹くくれ。」
巧さんがつぶやいた。
「体重乗せながら行けば今は何とかなるけど、これ最後までもつか?」
ウエイトの軽い人間が、試行錯誤を繰り返しながら一歩一歩進んでいく。しかし即座に限界が近づいた。
「どうすればいいんですか!」
喋るのもきつくなってる俺は、ややキレ気味で叫んだ。
「呼吸を一定に。ペース配分はわからんだろうから、残りなんて考えるな。」
冷静な巧さんよりアドバイスが来たが、言われるまで気付きもしなかった残りがわからない恐怖心が頭の中を駆けめぐる。しかしそんなものはすぐに消え去った。
「・・・。」
巧さんの振り返りつつの微笑みに、俺はうなずいた。
「くぉぉぉぉぉ・・・・。」
今まで静かだった琴町さんが奇声を上げる。きつさにって事より、どこか存在感を出そうとしているようだ。別にほっといたわけじゃないよ。
「終わったらあの風呂に行こう。」
人の力でなんとかなってる状況になったって、時間がたつにつれてさらに負担はどんどんかかってくる。本当に重かった・・・。個人的にはこれを運び終わってすぐ、温泉に頭から飛び込みたい心地になっていた。
一回目の運搬が終了し、俺たちは炭車と共にもとの場所へ戻ってきた。
「よし一段落だ。」
親方の口が動き、ぞろぞろと明るい方へ歩いていった。もうお昼だ。