・ひとりよがり その4・
「俺が手伝ってやろうか?」
少しも笑顔を絶やさず、おっさんは手を差し伸べてきた。
・・・やばそうだなー。
心の中でそう思い、俺はバリバリの不振さにもう行こうとした。だが特に行き先も決めてないし、このあたりならいざ知らず、地図ぐらい読めるだろうとたかをくくっていたが、よくよく考えてみると、このおっさんに会うまでそこまで気にもしていなかった。準備のなさにちょっと無謀かなと思い始めていたけど・・。
数分黙っているのを見兼ねたのか、おっさんは急な展開をし始めた。
「別によ、特別なんかしろってもんはないんだ。ただいろんな経験はできるだろうし、損はないとは思うんだが。」
な・何が?
「わはは。表情からは汲み取れんが、いろいろ考えてそうだな。」
心が折れそうだ。
「お互い一人っつーのも結局はよくないんだよ。」
しらねぇよ。
「な!騙す気はさらさらないんだって。居心地も広さも悪くはないって。」
なんだか少しの必死さにより、どこか不信感は増大の一歩をたどるしかなかったが・・・。
「・・・・・。」
何をさせられるのか知らないけど、決めかねるな。
『ねじり鉢巻をしているおっさんは頑固だろうが根はまっすぐな人間ばかりだ!!』
なんて勝手な印象持っていたが、このおっさんに嫌な感じはしない。世間知らずを逆手にとっていってみるか。どうせあれやこれや考えたって今の俺に一人で生き抜く力は無い。少しの金と、家を出た勢いしかないんだ。
「じゃぁ。」
俺は力弱く答えた。
「こっちにきな。」
おっさんの言葉に反応し、俺は頭を下げついていった。
後々恩人となるこのおっさんは、見ての通り長距離トラックの運転手だった。そういえば駐車場にやたらトラック止まってたな。トラック野郎のたまり場ってとこか。俺には無関係だった高速もすぐそこにある。俺は既に見た目よりかなり広い助手席に座り、これから起こることに特にテンションもあがらないまま、出発を待っていた。
ブロロロロロ・・・・・
「思ったより快適だろ?」
道中、おっさんは男の笑みをこぼしながら俺に話しかけてきた。だが昔から特に喋りたがらない俺は黙りこくっているが、確かに車内は想像より広くてなんだか楽しい。気付くと俺はおっさんに返事を返していた。
「俺は友実兼晴ってんだ。この道はそうだな。もう20年ちょっとか。おまえを拾った所より西に愛媛県てのがあんだろ。そこに妻子もいる。数日前まで自分の家でのんびりできてたんだが、次に帰れるのは一月後なんだな。」
俺もこんな感じで喋らなきゃいけないんだろうか。大変そうな印象を受け、俺は相槌を打つ。
「おい、返事ばっかじゃなくてなんか言えよ。こちとらいつものに独り言が増えちまっただけみたいになってんじゃねーか。」
おっさんは嬉しそうな中にも寂しさをかもしだしながら俺に訴えた。
「すいません。もともとあんまり喋る人間ではないんで。」
進行方向を見つめ、表情一つ変えず俺は答えた。
「なるほどな。わからんでもないが、それじゃどっかつまんないだろー?せっかく乗ってんだからいろいろ聞かせてくれよ。」
普通はこんな風に人に興味を持つものなんだろうか。まぁ俺にだって高校の時はちょっとしたことぐらいはあったけどさ。
「あっはっはっは。まぁいいさ。俺も求めすぎたんだろうよ。」
どうでもいいけど声がでかい。なんだかめんどくさくなってきた。ため息をつきたかったが、飲み込んだ。
「あ、そうだ。おまえ名前は?」
少しの間があった後、おっさんが訊ねて来た。
「有村。有村洋平です。」
自分のフルネーム。久々に言った気がする。
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