・ひとりよがり その3・

  親方が叫ぶように作業をやめさせた。俺は無駄は承知、怒られ覚悟で技術を盗もうと、じわじわつるはしを適当に振りつつ親方に近づいた。
「今日は終わりだ。」

 親方がまたも口の端で笑いながら言い終えた。
「え?あ、はい。」

 返事しなきゃよかったか。


「あぁ・・・。俺がここに来てもう三日かぁ・・・。」

 その日の夜、俺はゴロゴロと寝転がり、今までの事を思い返していた。
親に甘えることがいくらでも出来る所から出たのは、なんでだったんだろうな。」
 疲れからか体中をひねったりするとバキバキ言い出す。実家にいた時よりいい音がしている。
「まぁここにはその答えを知ってる人ばかりがいるんだと思うな。知らないけど。」
 打ち解けるわけも無く、会話と呼ばれる物は全くしてない。
「・・・あら?その答えを探しに出たんだっけ。なーんも考えずにでたはずだよなぁ。」

 今となっちゃ茶番だ。
「親父とお袋は、今頃何してるのかな。」


・・・・・・・・。

「そこそこ金たまったかな?」

 半月前のある日、俺は自宅の部屋で通帳を見ながらにんまりしていた。
「もう学生の時で言えば、夏休みが終わるなぁ。」
 
既にフリーター歴半年弱。体勢を変え、通帳を引き出しに戻した。
「ふぅ。」
 自分の部屋で、蝉の声を聞き流しながらもう何年も変わりない環境を見渡す。
 模様替えなんてすることがないから、家具の境目なんてはっきり差がわかりそうだ。俺そのものを表せられる部屋。
 その中のベットに横たわり俺はざっくりと一応の将来を見据えていた。
「資格、なんか取っとくべきだったかなぁ。」


 高校卒業後、ガソリンスタンドでバイトしながらだらだらとした日々を送っていた。ほんとに時間が過ぎればいいとだけ思っていたようだ。

 夏が終わりそうな頃、香川の片田舎から放浪の旅に出た。

 放浪とはいうが、地元にいたって何もやりたい事はわかないし、免許も資格も何一つない。
 いろいろな可能性を秘める学生時代なんてのは、学校と自宅の往復をこなすだけ。言うまでもなく、成績は下のあたりをいったりきたり。
 したいことも結局見つからず、俺は半ば強引にただ家を飛び出ただけだった。親に対しては前日の夜に明かす始末。どこかの大人のように全く身勝手な話しかもしれない。放浪なんて今時ないんだろうが、世間を知らない俺には怖いものが無く、ただただ成り行き任せに歩いていた。


 そして実家から10kmほど歩くとあたりはもう薄暗くなっており、やたら駐車場の広いうどん屋に辿り着いていた。
 飛び出た時間は午後の二時過ぎ。のんびり散歩気分なのか、飛び出たっつー割には特に気負いはなかった。夜もすんなり寝れたし。先の明暗にもびくびくしていない。バカ野郎なんだな。ただの。
 とりあえず入って腹ごしらえをしていると、結構空いてるのに隣にやたらごついおっさんが座り、俺に気付くと笑みをこぼした。

 本当にごつくて全て俺の二倍はありそうだ。

 あっけにとられて口にくわえたうどんがポロっと落ちそうになったが、なんとか残りのうどんをすすった。そうしてここからどうするか模索していたが結局思い浮かばず、このだだっ広い駐車場で野宿でもしようと表に出たその時だった。
「おい、そこの。」
 
さっきのごついおっさんだ。回りも気にせず、俺は振り向くだけで返事をしないと、おっさんは続けた。
「そんな荷物でどこ行くんだ?」

 この辺でも特に珍しくは無いが、でかいリュックを俺は背負っていた。登山人が背負ってるような奴だ。
「・・・。」

 田舎は怖い。すぐに話しかけてきやる。俺が返事をせずにいるとおっさんはこう言った。

                    
←back Θindex next⇒
Ξ.home