・ひとりよがり その2・
いわずもがなのびっくり顔をしながら、大隈さんはそそくさと元に戻っていった。あーほんとに気を付けなきゃ。
「おーい!」
「(ん?なんだ?)」
「有村―!ちょっとこっち手伝ってくれよー。」
琴町さんの声が聞こえる。ほんとによく響くな。
「はい。なんすか?」
近づくと巧さんも一緒だった。この二人は俺よりちょっと先輩で、同期だからかよく二人で一つの持ち場を任されている。二人とも見た目は華奢だが、締まってるってる感じ。巧さんがややってとこか。
「悪い。朝点検し忘れた所があってさ。ちょっといってきて。」
琴町さんに説明を受ける。
「よく怒られなかったっすね。」
俺は行く寸前に聞いてみた。
「あーそういやそうだな。気にもしてないんじゃないの?よくわかんねぇよ。」
琴町さんが安堵の表情で口を尖らす。
「別に言われたとおりできたって、こっちが気付いた頃にゃ違うことやってんだから。あの人は。考えるだけ無駄じゃねーの?」
言葉の後、巧さんの目の合図で俺は点検先へ向かった。
「(えーっと、これとこれと・・・)」
マニュアル通りに仕事をこなし、終わったことを報告しに行った。
「あ、そうだ。一輪車はありますけど、今日あの重機使うんすかね?」
俺はふと思い出した事を口にした。
「名前覚えろよ!立坑っつーの。まぁでっかいところのはもっとでっかいらしいけどな。」
琴町さんが得意気に教えてくれた。初日に聞いてた気がする。
「すいません。もうOKです。」
なかなか難しい。俺は流すように答えた。
「・・っ。まただよ。」
大隈さんが声を発した。ほどよくちっちゃく。
もう二人の先輩はつるはしに体重を乗せ、事の成り行きを見守っていた。
「そこはさっきやったじゃん。」
琴町さんのぼやきをよそに親方の周りは、壁やら地面やらあなぼこだらけ。掘っては首をかしげ
ながらたまにつまづいている。
「・・・。落ち着きの無い小学生か。」
巧さんも悪態をつく。
「(散らかってんのは土やら塵やらではあるから見ためは問題ないけど、そこからもう好き放題になってどうすんの。)」
俺は頭をぽりぽりとかいた。
そんな時、若手の気持ちをよそにのんきな声が聞こえてきた。
「ほぉ〜。」
里村さんが腰に手を当て大きく息を吐き出した。そらそうだ。あんなに勝手な事されちゃ。
「あ〜あ。もう体がいてぇよ。」
自身の不安かよ。俺は声を殺して笑ってしまった。
それにしても汚いなぁ・・。急になんだといわれても困るんだけどね。
「オーラァイ!!!」