ひとりよがり その1



      ―搦め手―


 
  ・ひとりよがり その1・

 印象よりは静かな洞窟の奥。土埃は、容易に爪の中まで侵食し、肌が擦れるとジャリッとした感触を感じさせてくれる。

「うおっ。」

 重さで体のひねりとともに反転していた。・・・くそつるはし。

 ドン・・・。   

 いてっ。
「ちっ」

 親方だ。舌打ちかよ。
「なんだ。暗がりで尻餅ついて。」

・・・・・・・・・・。


  押されたのは気のせいか?そりゃ俺は華奢だけど。
「なぁ坊主。」

 口の端で笑いやがった。

 後悔の念がふつふつと湧き上がってきていた。

 外の景色はもう、秋の色を少しずつ見せ始めていた。そして体験したことのない北海道の寒さを、鼻を通る空気が徐々に感じさせ始めていたが、薄暗い中俺は汗をかいていた。
「オーライ。オー・・・ライ。」

 炭車が止まった。休憩だ。

 俺は既に真っ黒になったタオルで真っ黒な顔を拭きながら、まだ柔らかそうな土の上で一息ついた。きれいな表現ではないが、汗のおかげで乾いてる部分が無い。
「おぅ有村。へばってないか?さっきのあれ笑けたぞ。」

 やたら笑っている里村さんが話しかけてきた。何がそんなにおかしいんだ。それにしてもこの人はどこにそんな力があるんだか、この現場に似つかない、とてもごついとは言い難い体型だ。そんな人だがこの現場の参謀のような存在である。
「はぁ。」

 どうすればつるはしを振りやすいか模索していたと言えば嘘にはならないが、言われた通りとにかく持ってかれていた。ぐぅの音もでない。
「これ重いよな。手幅だなんだって言うけど、なかなかあらよっとなんて言える手軽さではない よ。あっはっはっは。」

 表情は大笑いしているが、声は小さめだった。ほんとに楽しそうだな。俺がのんきにそう思ってた時。


「おい!」


 ・・・・・・・・・・。

 親方の怒号が響いた。たった二文字しか言ってないのにこの威圧感はなんなんだ。知らぬ間に肩がすくみ振り返る。しかし親方はこっちを見ていなかった。俺が我に返えれた時には、里村さんは 自分の持ち場に戻っていた後だった。


「ふぅ。」

 里村さんが持ち場に戻った後、俺はため息をついていた。
「おまえ洞窟に響かすなよ。聞こえるぞ。」

 ため息に気付いた大隈さんが近づいてきた。この人はごつい。俺からして、結構な先輩である。
「あ。そういわれて背中ヒヤッとしましたよ。」

 さっき怒られた事を今思い出した。
「まじで気をつけろよ。何年たってもあの唐突な声にびびるんだってよ。」
                                        
 

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