こんな時、学園で一番頼りになるのは先生だ。
団蔵は職員室に向かった。
「団蔵」
職員室に向かう途中の廊下で、土井先生に呼び止められた。
「夕飯は食べたのか?こんなところで何してる」
「せ、せんせえ」
土井の顔を見て、団蔵は心底安心しきった。
緊張の糸が途切れた途端、団蔵の目にはまた涙が浮かんでくる。
「大変なんです!!先輩が、潮江先輩が…大変なんです!!」
団蔵は土井に抱きついて、泣いた。
土井は団蔵の言葉にピクリと不自然な反応をしたが、団蔵を抱きしめる腕も背中をなだめる手も優しかった。
「一体何があったんだ、順を追って説明しろ」
団蔵は土井に事の転結をすべて説明した。
おつかいの行きがけに、山賊に襲われたこと。文次郎に助けられたこと。
暗くなった帰り道、何者かが大勢で攻撃してきたこと。
文次郎が自分をかばってひとり森の中に残ったこと。
「先生、僕じゃ足手まといだったんです…お願いです、先輩を助けてください…!!」
団蔵は自分の非力を呪い、土井にすがりついた。
土井は少し何かを考えるが、ゆっくりと口を開いた。
「下級生だからって、何もできないわけじゃないさ」
団蔵は土井を見上げる。
彼は微笑んでいた。
「学園まで必死で走ってきたんだろう?よく頑張ったな」
土井は団蔵の濡れた頬を指で撫で、涙をぬぐった。
「あとは先生たちでなんとかするから、お前はみんなのところに戻りなさい」
「はい…」
団蔵は感極まって、それしか言えなかった。
代わりに目で訴える。
どうか、先輩を助けてください、と。
土井はたしかに頷いてくれた。
「さて、と」
団蔵を見送ったあと、誰もいない廊下でひとりごちる。
「どうしようかなぁ」
その声は、明らかに土井のものではなかった。
――はじめは悪ふざけだったのだ。
必死な顔をして何をそんなに急いでいるのかと思って、彼の担任の顔を借りたのだが、
思いも寄らない人の名前を聞いて驚いた。
それに、
「あんな必死な目をして頼まれたら、放っておけないしね」
言いながら顔に手をあてて、鉢屋三郎は土井の変装を解いた。
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