裏門にたどり着くまでに、だいぶ時間がかかってしまった。
途中で誰かに会わないかと期待したが、それも無駄だった。
もう時間がないように思えた。
団蔵は何を思ったか、くるりと踵を返して元来た道を引き返した。


田んぼから蛙の鳴き声が響く。
夜のあぜ道を子供が一人、森へ向かって駆けていく。
学園から離れていくにつれ、目に見える闇も心の闇も増していくようだ。
足が重い。
「はぁっ…はぁっ…」
ダメだ。やはり、もう走れない。
そう思いつつ、団蔵は立ち止まりも歩きもせず、ただ前だけを見て駆けていく。
そうだ、彼はいつも言っていたじゃないか。「忍者は前進あるのみだ」と。

まだ間に合うだろうか。
彼は無事だろうか。
引き返してきたことを知ったら、きっと怒るだろう。
それに戻ったって、彼の足手まといになるだけだ。
自分は何もできない。
助けも呼べなかった。
ごめんなさい。
でも、でも、でも。

「あっ!」
団蔵は道まででっぱった岩に足をとられて、派手に転んだ。
ドサッと倒れて地面に擦れる体。衝撃と、すぐに痛みが走る。
ぐっと顔をしかめる。
涙が出そうになる。が、必死でこらえた。
「せんぱい…」

ただ、彼の元に戻りたい。
こんな弱い自分でも、彼を助けたいと思う気持ちは誰よりも強い。
本当に、どうしようもないくらいに、だ。
なら、何かできることがあるはずなのだ。


身を起こしている時、どこからか ブルルッ と聞き慣れた音、いや、声を聞いた。
遠くまであたりを見回すと、田んぼの向こう側、ポツポツとある民家の中にまぎれて馬小屋が見えた。
団蔵は何も考えずにそちらへ向かう。

馬小屋には一頭の馬がいた。
大人が乗る大きな馬だ。おそらく農作業に従事させているのだろうが。
「……」
団蔵は決意したと同時に叫んだ。
「この子、おかりします!!」
一応大声で断りは入れたが、できれば気づいてほしくなかった。事態は一刻を争うのだ。
戸を開け放ち、柱にくくりつけてある縄をほどいて馬を自由にすると、団蔵はその馬の背にひらりとまたがる。
手綱をグイッと引けば、馬は短く鳴いて走り出した。



















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