<此れは…終端の王と異世界の騎士達との 壮大な戦いの序曲である…>
『成り行き』…。 自分が同行する事になったのは、正にそういう物だろう。
まさかここまで大事になるとは思わなかった。
最初はそれこそ、強敵と戦い、自分の腕を磨く事しか考えていなかった。
今のこの戦いが…最終決戦。
世界を喰らう『終端の王(Endia)』 継ぎ接ぎされた『偉大な可能性(Grandia)』
太陽の『狂詩曲(Rhapsodia)』 騎士の名を呼ぶ…
「ヒーリング!」
「ありがとう!」
回復術を受けたアイツは、すぐにまた敵に向かって行った。
俺の詠唱の時間を稼いでいたアイツの姉も、すぐに本来の自分の役割に戻っていく。
<忌避すべき終端…王を退ける者… 『騎士(Knights)』とは即ち刃である>
「サンダーブレア!」
背後で施術が完成し、雷電の檻が現れる。
発動に合わせて後ろに避ければ、この空間への『鍵』たる女が笑っていた。
俺が火が苦手だと知ってから、コイツは徹底的に使う術を制限した。
時を孕む『終端の王(Endia)』 調整された『偉大な可能性(Grandia)』
生命(いのち)の『譚詩曲(Balladia)』 騎士の名を呼ぶ…
「「エリアルレイド!!」」
上空から金髪が二人、自称・神に向かって蹴り落ちて来た。
威力はともかく、同時にやったせいで土煙が立ってしまっている。
後で文句を言っておこう。
…と思ってたら、すでに男の方が女に叱られていた。
いつもの事だが、こんな時まで夫婦漫才をするな。
仮初の空に浮かべた追想の『追走曲(Canon)』
『地平線を渡る旋律(ものがたり)』を口吟むのは誰の唇?
「黒鷹旋!」
俺達前衛の攻撃の合間を埋めるように、隠密が一歩下がった所から遠距離攻撃をしている。
相手に反撃の隙を与えない、完膚なきまでにボコる作戦だったから。
発動時間が短い赤髪の隠密は、それ以外は回復に徹している。
アイツは高度な攻撃系施術は使えねぇし、小回りが効く分相手に接近しなければ大概の攻撃は意味がない。
気に食わない女だが、こういう時の判断力はさすがだ。
「タイタ〜〜ン…フィストォォオオオ!」
…ちったぁ見習えよ髭ジジイ。
<異世界を繋ぐ鍵…騎士を戴く物… 『門(Gate)』とは即ち駿馬である>
奴の攻撃は効果範囲が広い。
あの武器にもなる背後の物体が動き回り、そう簡単には近寄れない。
「トライファンネル!」
「ドリームコンボ!」
チビガキ共なら近寄れる。
ちょろちょろ立ち回れるアイツらなら、大してダメージを受ける事なくいける。
歴史を呑む『終端の王(Endia)』 改竄された『偉大な可能性(Grandia)』
運命の『交響曲(Symphonia)』 騎士の名を呼ぶ…
「ストレイヤー・ヴォイド!」
「グラビティ・ビュレット!」
弟がプロテクトを割り、姉が追い撃ちをかけていく。
暗黒の闘気、重力の檻。
端から見たらどっちが悪役だか。
…Gutsも回復したしMPも補給した。
そろそろ俺も行こう。
争いの調べで躍る円卓の『円舞曲(Waltz)』
『支配権の正統性(ものがたり)』を振り翳すのは誰の正義か?
「吼竜破!」
他の奴らが圧している間に、闘気で竜を形成する。
発動は遅いが威力は充分。 俺個人としては結構気に入ってる。
5ヒットもした所で『神』はダウンした。
チャージで間合いを詰めれば、局地集中の攻撃が苦手そうなコイツは楽だ。
点いて往く灯火を…消えて逝く灯火を…
漆黒の『髪(やみ)』が…赫い『瞳(ひかり)』が… 黙したまま見送るだけ…
「剛魔掌!」
立ち上がってすぐの隙が多い時なら、近距離攻撃も面白いほど当たる。
プロテクトされそうになったら、すかさず大攻撃でそれを割った。
「この…バグ風情が!!」
大技発動の予想をつけて、一旦下がる。
すぐに誰かが爆弾を投げて、発動を阻止していた。
今の所、まだ『神』は反撃出来ていない。
ここまでこの俺が、戦闘中に味方に合わせて動いたのは、もしかしたら初めてかもしれない。
嗚呼…唯…頁をなぞる様に…
『戯曲(Drama)』通りに『役者(Doll)』は踊り…
「馬鹿な…この…私が……!?」
HP・MP共々尽きた『神』は、何やら大仰な機械に向かった。
それがどういう事かは俺には解らねぇが、他の連中の様子を見る限り、どうやら奴は最終手段に出るらしい。
『神』を止めようと青毛弟が飛び出したが…。
手が届く前に、視界が黒く暗転した。
残酷な幻想の美しい棘が…仄甘い『陶酔(ゆめ)』を見せ…
残酷な幻想の華やかな毒が…仄昏い奈落へと『観客(きみ)』を誘う…
周囲は黒一色。 それ以外には何もなかった。
さっきまで傍にいた奴らも、誰もいない。
正直、自分は死んだのかと思った。
何もない空間なのに、どこか温かい。
懐かしい感覚がした。
<アルベル。>
不意に呼ばれて振り向けば、そこには懐かしい姿。
「親…父…?」
願ったこと全てが叶う世界ではない
だからこそ 少年は大きく翔たくだろう…
そこには九年前、死ぬ直前と同じ出で立ちの親父が居た。
色々な感情が混ざって、上手く言葉が出ない。
<よく頑張ったじゃねぇか、この馬鹿息子。>
「俺は…死んだのか…?」
<あぁ!? んな訳あるか阿呆。>
このクソ親父は、俺の頭を思いっ切り殴りやがった。
それも遠慮なく。 絶対コブ出来てるぞ、これ。
<まだ孫の顔見れてねぇってのに、お前をこっちに呼ぶ訳ねぇだろうが!
なぁレイリア?>
<そうそう。>
「!?」
殴られた頭を押さえながらも、驚いて顔を上げた。
さっきまで誰も居なかった親父の隣に、女が一人立っていた。
「お袋!?」
肖像画でしか見た事なかった顔が、笑っていた。
嗚呼…希望も絶望も両手で抱きしめて
それでこそ 少年は大きく翔たくだろう…
服装はそれこそシーハーツ女王の物に似ていたが、顔は髭ジジイが言う通り、俺にそっくりだった。
親父と結婚するだけあって、態度もデカイらしい。
本当にあの女王の親類なのか疑いたくなる。
<ここは狭間…私達の世界と貴方達の世界のね。
さっきのドンパチのせいで、バランスが崩れたみたいなのよね。>
世界存続を賭けた戦いを、ドンパチというかこの母は。
<お前の仲間の…何てったけ? あの青髪の奴達が今、バランス調整してっから。
すぐに戻れるだろ。>
<あら、エレナちゃんも頑張ってるわよ。>
あの学者の知り合いなのか。
段々頭が痛くなってきた。 勿論コブがじゃない。
<アルベル。>
うなだれていると、お袋と目が合った。
優しいが、どこか哀しそうに笑っている。
「嗚呼…どんなに強い向かい風であれ決意という
どんなに強い風でも其の 翼を折ることは出来ない!」
<大きく…なったのね。>
そう言って俺の頭を撫でた。
いい年した男が母親に頭撫でられるなんざ、今まで恥だとしか思ってたが…。
いざとなると、振り払おうとしても手が動かない。
『親』とはこんなに暖かいものだったのか。
「俺も…もう24だ。」
<そうね…私が貴方を産んだ年だわ。>
お袋の手が離れた時、視界が明るくなった。
アイツらが上手くやったらしい…。
<さぁ…もう往きなさい。 お前はお前の『生』を歩むんだ。>
<もう私達に、罪悪感を持つ必要はないのだから…。>
周囲が明るくなるにつれ、二人の姿が薄まっていく。
手を伸ばそうとしても届かない。
<アルベル…。>
意識が遠退く中、お袋の声が聞こえた気がした。
<貴方は−−
『0302・0101・1001・0304・0502・0105・0501・0902・0501・0301・0102。』>
無限に繰り返す痛みは輪廻の『輪舞曲(Londo)』
『世界が失った可能性(ものがたり)』を取り戻すのは誰の剣か?
気がつくと、そこはイリスの野だった。
他の奴らも今目が覚めたようで、額に手を充てていたりしていた。
すべて終わった。 後悔は何もない。
「何やってる! 置いて行くぞ阿呆!」
「ちょ…っ、待てって!」
三年間の休職届けを王に押し付けた俺は、フェイトと共に旅に出た。
別に一人でもよかったんだが、コイツが意地でも着いて来ると言いやがったから好きにさせた。
「衝烈破!」
見た事のない魔物だが、レベルは低いらしい。
一撃で倒せるようなザコばかりだ。
「アルベル、今日はここで野営しようか。」
「あぁ。」
連れなど居ない方が楽だが、一人じゃないというのも…悪くはない。
料理レベルが低くても作れるメシを食って、俺はさっさと寝た。
幸福かどうかは解らねぇが…充実はしている毎日。
あの時のお袋の言葉に応えられているという自信もない。
だが、別にそれでもいいと思った。
これは俺の人生だから。
今…ハジマリの空に浮かべた追悼の『追走曲(Canon)』
『第五の地平線の旋律(ものがたり)』を口吟むのは『少年(かれ)』の唇…
<アルベル…貴方は−−
『 (しあわせにおなりなさい。) 』>
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