トワイライト
「変なルーン」
「あら、変ではないと思いますわよ」
宮殿の朝は遅い。もう日が昇り始めているのにまだ起きていない人の方が多いのだ。おかげで誰も邪魔に入ってこない。アデイルとフィリエルの部屋は隣同士で、お互い行き来しあっていた。
「ねぇ、コンスタンス女王が伝えたいことって何だったのかしら?」
「そうですわね・・・。時期的に考えるとそろそろ新女王が誕生してもおかしくないとき。たぶん私たちが女王となる準備が整いつつあるのを見て、そろそろだと思われているのかもしれませんわ」
「準備・・・」
あんまり女王なんて今までしっくりこなかった。
むしろ、フィリエルは自分は後から割り込んだ者だという感じが抜けなかったのでどうにも女王としての意識があまりなかった。
(とうとうこの日がきたんだわ)
そう心に話しかける。
ルーンが苦もなく研究できる環境を、そして博士が戻ってこられるよう・・・
(でも、博士はきっと私が女王にならなくても研究は続けている)
あの人は特別だ。
「ねぇ、アデイル。貴方が女王になったら、まず何を変えたいの?」
「私?」
アデイルは少し考えて微笑みながらこう答えた。
「そう・・・ですわね。女王が普通に恋ができますようにとかかしら」
「良いと思うわ」
お互いくすくすと笑いながらティーカップに口をつけた。
カチャリ。
ドアが少し乱暴に開かれる。こんな時間に・・・?
「君たちは本当に呑気だな」
「レアンドラ!」
ノックもせずに部屋に割り込んできたのは彼女だった。フィリエルはティーカップを置くとさっと身構えた。この人と一緒にいるとロクなことがないくらい身にしみていた。
「あら、お姉さまノックもせず婦女のお部屋に入るのはマナー違反もいいところですわよ」
「私も婦女・・・なのだがな。こんな時間に2人で話すところから考えて何か良くないことでも企んでいたか」
「まあ、物騒な。私たちは女王候補の者、そんなことは女王の座を狙う奴らだけですわよ」
と言葉の裏の裏まで読んだ心理合戦が始まる。
こうなるとフィリエルには到底手が出せない。
「まあ、そんなことどうでもいい。コンスタンス女王がお呼びだ。私達3人を」
やっと・・・。ついに来た。この日が。
フィリエルは膝がガクガクして歩くのでもめい一杯だった。レアンドラも、アデイルもこんなに誇らしげに歩いているというのに。
(負けられないわ)
胸を張って3人で大広間のドアを開いた。
ガチャン・・・・重々しいドアの音。
「全く、女王もいい演出をしてくれるよ」
とレアンドラは楽しげだ。
「3人の女王候補たち、こちらへ。」
中央の座に座っているのは紛れもなくコンスタンス女王だった。傍らにはあの、バードが微笑んでいた。
「ようこそ、フィリエル。君は相変わらずといったところですね」
「バード、貴方もよ」
フィリエルは軽く会釈してそうつまらなさそうに答えた。
「いえ、私は一度新しく生まれ・・・いや、この話はまた後ほど」
「レアンドラ、アデイル、フィリエル・・・あなた方の時代がとうとうきました。もうおわかりでしょうが、私にはもう時間はありません。あなた達に教えられることを全て教えたつもりです。遠い道のりだったかもしれませんが、もしかするととても早かったのかもしれません。私にはもう決定権は残っていません。残っているとするならばただ1つ・・・。あなた方を新しい女王と認めることです」
そして、女王のため息が聞こえた。
「私は、いい孫をもちました。特に・・・フィリエル、あなたの母の罪は消えます。もう公になったとしても、私が弁解をいたしましょう」
お母さんの罪が・・・消える・・・・
それは私ではなく、博士がもっとも望んでいたことだった。
(博士がいてくれるのなら・・・)
博士が・・・
「フィリエル、」
バードが察したかのように口をひらいた。
「博士は私達の目の届かない所へ行かれました」
「博士の行方がわかるのですか?!」
フィリエルは食いつくかのような勢いでバードに歩み寄った。
「いいえ。やはり私にもできないことはあるのですよ」
「・・・ごめんなさい」
一歩下がると、バードが
「でも、きっとあの方なら大丈夫です。この世界の真理にたどり着いた方。きっと生きておられます」
博士は生きている。
どうしてかはっきりと確信を持つことができた。勝手に自分に納得させていたものがあふれ出して、体を駆けめぐったかのように。
「さて、あなた達の望みを最後に聞きましょう。3人の望み何ですか」
バードは優しく微笑んだ。
「私は、グラールに禁止されていたものを廃止すべきだと」
とレアンドラは真っ先にそう答えた。
「私も同じくですわ。私は、女王が禁止していることを廃止すべきだと思います」
「最後に、フィリエル。君は?」
「私は・・・」
願いが叶う・・・。この瞬間のために私は今までやってきた。
私は・・・・
「ルーンの研究を、地下組織が行っていた研究を認めて下さい」
「わかりました。どれも難題です。でも、きっとこれから全てが変わります」
「新しき女王の誕生です」
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