登山と高山病-その3
3.高山病の定義と諸症状

急激に高所に登ると誰しも体の不調を訴えるのは、不思議でもなんでもありません。高所といっても色々ありますが、一般的には次のような分類で行なわれているようです。各々の高度域の特徴を表2に示します。

高所は低酸素、低気圧更には低温の三苦境の世界ですが、高所障害を起こすのは主に低酸素の影響です。急性高山病は「病」という字を当てますので、「病気」だと思われがちですが、生体の正常な反応です。

分類

対象

高所順応

通常高所

(24004300m)

普通の旅行者や登
山者。訪れる人が多い。

2400m以上は高所障害の発生
が高い。
4000mが低酸素の壁。
急性高山病(AMS)

非常な高所
(4300〜5500m)

高所登山のBC.
ヒマラヤのトレッカー

高所順応せずに行くと種々の高度障害が起こり危険である。
高度肺水腫(HAPE)
脳浮腫   (HACE)

極限の高所
(5500〜8800
m)

エキスパートの高所登山者

高所順応無しには登
れない。長期滞在で高所衰退が起こる。

各高所域の特徴と高度順応

「この低酸素環境は危険で、生存困難ですよ!」と知らせてくれる赤信号(お告げ)です。ですから「お告げ」を無闇に恐れる必要はありません。お告げに従い、下記のように行動すれば何の心配もありません。逆にこの症状が出ないのは、貴方が高所に強いか、あるいはお告げ機能が正常に働いていないことです。
 3.に示すように、軽度のAMS、より重篤な高地脳浮腫HACE:high altitude cerebral edema)や高地肺水腫(HAPE:high altitude pulmonary edema)は、しばし致命的な結果をもたらします。
 AMSが起こりやすいのは大体、2450m(8000feet)以上の高度で、3050m(10000feet)以上ではほぼ3/4の人に軽度のAMS症状が出現するといわれます。またその発生頻度や重症度は、到達高度と到達速度に依存する[i]といわれます。即ち、到達高度が高ければ高い程、登高スピードが早ければ早いほど発症頻度が高くなる、ということです。当然ながら前回ならなかったから、今回もならない保証はありません。

[i] Singh I al:Acute mountain sickness.N Engl J Med 280:

175-184,1969

急性高山病(AMS)  
 新しい高度に到達した際に,頭痛に加え,消化器症状(食欲不振,吐き気,嘔吐、倦怠感または虚脱感,めまいまたはもうろう感,睡眠障害のうち少なくとも1つを認める。

高地脳浮腫(HACE)  
 重症急性高山病の最終段階.急性高山病症状に精神状態の変化と運勤失調のどちらかを認める場合か,急性高山病症状がないときは両者とも認める場合。
高地肺水腫(HAPE)
 臨床症状として,安静時呼吸困難,咳,運動能力低下,胸部圧迫感または充満感のうち少なくとも2つと,身体所見として少なくとも1肺野でのラ音または笛声音,中心性チアノーゼ,頻脈,頻呼吸のうち少なくとも2つを認める。

高山病の定義(国際低酸素シンポジウムにおける合意:1991年、カナダ、レイクルイーズ、)

通常高所到達後6〜12時間から出現し、2〜3日で最大となり、4〜5日後には次第に消失するといわれます。その期間を決めるのが、いわゆる「順応の速さ」です。前述のファクター以外に、高度差、体調も大いに影響します。

私は何時も会合で、「高山病は二日酔いの如し」と申しています。

事実、軽度の高山病は、頭痛、食欲不振、嘔気、全身倦怠更に不眠(私の場合、アルコールは入眠促進に働きますが!?)など、まさしく二日酔い症状そのものです。[i]まあ二日酔いは1日もたてばなくなりますが、高度に弱い人にとってAMSはその分厄介です。

[i]山ではアルコールが非常にまわり易いので、飲みすぎるとどちらの症状か分かり難いことにな
ります。本当の
AMSならば高所到着時に、気分不良でアルコールを飲む気にはなりませんので鑑別可能です。
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