登山と高山病-その4
3.高山病の定義と諸症状-その2

此処で便利な判定基準(表4.)を紹介します。1991年、カナダのレイクルイーズで開催された国際低酸素シンポジウムで提唱され、その後、この方法での評価が定着しているようです。
 評価方法は@自己評価:5つの主要症状の程度を自己評価により回答し、その合計で評価するが、日帰りは「睡眠障害」を省略可能である。A臨床的評価:診察による評価、検者がいなければ省略可能。B総合的機能評価:オプション的なスコア。の3評価[i]で行ないますが、一番大事なのは、なんと言っても@の自己評価です。

[i]判定方法:@あるいは@+Aのどちらかの点数が3点以上の場合にAMS陽性と判断する。@のみで4点以上、@+Aで5点以上をよう性という報告もあるようです。

4000mでは誰にでもこれらの症状が少なからず出るはずです。ですから、この症状が出ないときは、「自分は高度に強い」と自信過剰にならず、「お告げ」機能の故障、すなわち体調不良を疑うほうがいいと思います。「お告げ」は通常、2〜5日くらいで徐々に回復してきますので、それまでは、安静にして意識的に深呼吸をしたり、お茶を飲んだり、会話を楽しんだりして、気を紛らわせましょう。勿論日本の山ではそれまでに下りてしまうでしょうが。

その他のAMSの症状には、胸部の圧迫感、顔面、手の浮腫、放屁もあるようですが、これら軽度のAMS症状が確認できた時に大切なのは、改善の方策(高度順応促進)と体力の温存です。ここでAMSの意識無く、能天気に無理をするのが一番危険なことです。
 網膜出血(眼底出血)も高山病の1つです。高所では大小の眼底出血が生じ、進行すると視野狭窄や視力低下が生じますが、高度を下げると回復します。[i]

[i]高峰の下降時に転倒、滑落しして遭難する例、は単なる疲労のみならず、視力問題が多いようです。

4.AMS症状出現時の対応

基本的には予防に尽きる「ゆっくり登ること」

 高度順応の決め手はやはり、ゆっくり登ることに尽きると思います。
高地になるほど最大脈拍数は減少するので、(これは低圧による心臓、血管の膨張によるものと思いますが)平地と同じ脈拍でもとんでもない強度の運動をしていることになります。このため高地での運動強度は、相対的な心拍数(%HRmax)で表現するようです。
「平地と同じ程度に頑張っている」こと自体、高山病のお招きに応じている事態です。
 キリマンジャロの登頂成功率が、日本の高山経験者(といっても日本アルプス程度ですが)程低いのも、あの中盤の緩斜面で飛ばすことにあるとよく言われます。

 高度順応の面で(登頂スピードをいたずらに上げない)自己規制が重要だと思います。自信のあるものほど陥り易いピットフォールなのかもしれません。

起こってしまったときの対応策を個別に述べます。   
   

1)当日はそれ以上高度を上げない。 

安静にして(低酸素状態に)体を慣らすこと。
登り続けても決して改善しない。

2)水分摂取、排尿促進(予防で実行!)
 
(空気も低温で乾燥している為)不感蒸泄が増加する為、脱水が起こりやすく口渇感の鈍化する。平地の倍量の、1日4リットルを超える水分摂取が必要とされる。1日最低1.5Lの尿量が必要。
3)暖かくして、ゆっくり休養
 当たり前のことだが、寒くては寝むれない。
また
寒さによる振戦は酸素消費量を増す。
4)深呼吸する
 意識して、腹式呼吸で深呼吸が効果的。空気を吐き出すことを意識せよ。COLDの患者さんの口すぼめ呼吸(唇をすぼめてゆっくりと吐き出すと、気道内の圧力が下がって自然と体内に空気が取り込まれる)が勧められる。お茶を飲みながらの談笑は有効である。

5)鎮痛剤
 頭痛時の投与はアスピリン程度の軽いものに止める。
NSAIDSには
睡眠作用があるので、服用は避けたほうがいい?

6)利尿剤
  ラシックスは利尿作用が強すぎるため原則不適応。
マイルドなダイアモックス(アセトアゾラミド)は有効とされるが、異論もある。予防薬として入山前より服用する方法(登山開始1日前から高所到着後3〜5日目まで、1日2回朝と寝る前に各125mg)もあり。(副作用として口唇、手足のしびれが出ることあり)

7)眠剤
 呼吸を浅くし換気量を低下させるため、動脈血炭酸ガス分圧(PaCO2)を増加させ、ひいては低酸素状態となりAMSを悪化させる。不眠に対する使用は禁忌である。
 高度に体がなれてくると諸症状が改善され、血中酸素濃度値(パルスオキシメーターによる酸素飽和度)は上がり、心拍数が平常値に近くなってきます。しかし、いつまでたっても改善の兆候が見られないで、頭が締め付けられるように、ガンガンするときや咳が止まらない、また平静時の脈拍が3割以上多くて下がらない場合は中期の症状に進んでいるおそれがあります。このような場合は、直ちに高度を下げてやれば、いままでの症状が嘘のように回復します。

高所登山自体に厳密なダブルブラインドテストが適応し得ない事情もあると思いますが、今回の発表でも「急性高山病症状の出現から約36時間で高地肺水腫が発症する可能性が示唆された。AMSスコアの急速な増悪はへの移行を念頭に置き、7点を超過したら高地肺水腫の可能性を認識し対処する必要がある」との発表がありました。

戻る