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 次の日も、ミンスはそんな調子で、意味不明なせりふを吐いては1人うなずいて騒ぎながら、コロナ中を回って歩いた。
 酒場では、新参の変人の噂で持ちきりだった。
「あいつ、道具屋で、なんだか分からないウンチクを長々とたれながら、鎧と武器を買っていたぜ」
「ああ、俺も見た。しつっこく値切ってたぜ」
「ハンスも気の毒に」
「鍛冶屋でも、何かやらかしたそうじゃないか」
「…いや、やらかしちゃいないが、訳の分からんことをしつこく聞いたんで、ロッドがキレたとさ」
「そういや、教会でシェリクにからんでたぜ」
「へえ、シェリクにまで? 何つって?」
「聖職者なのに…しかも、鈍器しか使わない聖職者なんだぜ… なのに、何でターン・アンデッド(死者祓い)が出来ないのかって、聞いただけだ。
からんじゃいねえよ!」
「…げ、ミンス! き、聞いてたのか?」

 そんな奴にも、町のみんなはすぐに慣れて、適当に受け流せるようになっていった。
 しかし、ミンスの方は日を追って目に見えてイライラしてきた。
 毎日、酒場でマスターにからむんだ。
「オヤジさん…」
「マスターと呼んでくれよ。依頼なら、ないぜ」
「何でだよぉ!」
「知るか。無いもんは無いんだ」
「そんなの変だぜ。セオリーから外れてる」
「そんなセオリー、知らんぞ」
「知らねぇのかよ、世界の常識だぜ! 新米冒険者には、ゴブリン退治の依頼があるはずじゃねぇか!」
「お前の常識がどうでも、とにかく依頼はないんだ」
「そんなぁ! 冒険の装備はバッチリそろってるし、金はスッカラカン。後は依頼を受けるだけだってのに…」
「仕方ないだろ。んな所でうだうだやってないで、さっさと仕事でもしてこい」

 毎日毎日この調子だったんで、酒場のマスターもうんざりしたらしい。
 とうとうある朝、マスターは自分でミンスに「依頼する」ことにした。
 依頼っつっても、すぐそこのレーシィ山までキノコを取りに行かせるというだけの…まあ、お使いなんだが。 ミンスも、報酬が出ると聞いて、納得しておとなしく出かけていったらしい。
 けど、それ聞いて、アルターが驚いた。アルターの言うには、レーシィ山には最近、魔物が出るんだと。
 いくら偉そうな口を叩いてたって、所詮新米冒険者、1人ではやられちまう。
 変な奴だが、悪い奴でもなし。ほうっておくわけにもいくまい…と、 アルターとマーロが救出に向かおうと…してた所に、ミンスはひょっこりと帰ってきた。

 ミンスという奴、ああ見えて結構やるようで…なんと1人で魔物を片づけたらしい。
「とにかくしんどい戦いだったけどよ、何とか勝てたぜ!
いきなりガーゴイルが出たときにゃ、もうだめかと思ったぜ。魔法の武器でなきゃ効かないって聞いてたからな。
けど、普通の武器でちゃんと傷が付いたしな!」
 と、満身創痍ではあったが、元気いっぱいに、鼻高々でまくし立てた。
「しかも、しかも! オレの呪いもとけちまった!」
 え? と、突然ぶっとんだ話の中身に、みんなの目が点になるのを得意げに見回して、
「頼まれた美味キノコとってたらよ、中に、でっかい赤いキノコが混じってたんだ。
 これが旨そうで旨そうで…つい、ぱくっとやっちまった。
 すると、いきなり、煙がもくもくわいて来やがってよ。 なんじゃこりゃ、と思ってたら、ラドゥの爺さんがいきなり出てきてよ、 『なんということじゃ、おまえの呪いは解けた』とか何とか、目ぇ剥いて驚いてやんの。
 オレだって驚いたよ。でも、ま、呪いが解けたんだからめでてぇやな。
 今日は大いに騒ごうぜ! オレのおごりだ!」
 …おごりだっつって、おまえ、今、文無しだろ、ミンス?

 で、ミンスはそれから冒険者としてコロナに居着いちまった。
 今でもあいかわらずの調子だが、冒険者としてはかなりの手練れで通るようになった。
 記憶は相変わらず戻らなかったが…本人曰く、
「ま、少なくとも、生まれながらの根っからの冒険者だったことだけは間違いねぇな!」
 …だ、そうだ。



 プラチナの絵本、きのこエンディングのお話です。
パロディ的な内容ですが、古いゲーマーでないと分からないかもしれません。
でも、古いゲーマーとしては、どうしても書きたくて…。
こんなしょうもない話ですが、最後までお読みくださいまして有り難うございます。


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