小さな本棚・トップに戻る
ミンス小伝(後)に進む


ミンス小伝(前)


 そいつは、ある日突然、冒険者宿にやってきた。
 青髪茶眼。背は高く、体は引き締まって、顔もそこそこ男前。声も悪くない。
 …だが、とにかく変わった奴だった。

 そいつは、颯爽と冒険者宿に飛び込んでくると、まっすぐカウンターに向かった。
 そして、迎えたマスターに、
「あんた、新しい冒険者かい?」
と尋ねられると、いかにもうれしそうに大口を開けてにやりと笑い、
「いかにも、その通り!」
と、アルターもびっくりの大声を出した。
 気おされながらも、マスターが、
「この街にやってくる冒険者はみんな、この酒場に泊まるんだ。あんたもゆっくりしていくといいぜ」
と、言い終わらぬ前に、カウンターから身を乗り出して、
「そうそう、そうでなくっちゃ!」
いきなりマスターの手を取って握手して、
「いやー、あんた、典型的な冒険者の宿のマスターだね、うん。よかったなぁ、うんうん」
と、1人なにやら訳のわからないことを言ってうなずいた。
「…で、あんたの名前は?」
 マスターが、なんとか手を引っ込めながら尋ねると、
「おっといけねぇ。肝心なことを忘れてた。オレは、ミンスってんだ。ミンスだ、よろしくな! 
クラスは、見ての通り、ファイター。もちろん、まだ1レベルだがよ、腕っぷしはかなりのもんだ。
みんな、よろしくな! ミンスってんだ!!」
 こんな、わけの分からない自己紹介を、しかも辺りを見回しながら大声でわめくもんだから、 酒場の客はみんなあっけにとられて黙り込んだ。
 最後に、そいつの見回した目が、どう見ても冒険者の出で立ちのアルターの上にとまった。
で、やや腰を引きながらも、アルターが自己紹介すると…
「そうかそうか、あんたが最初のパーティーメンバーってわけか!
よろしくな! うんうん」
 と、また強引に握手しながら、一人でうなずくんだ。
「やっぱ、戦士系はどんなパーティーでも必要だかんな!」
 こうやって一通り自己紹介すると、そいつも気が済んだのか、
「それじゃ、オヤジさん、部屋、見てくっから!」
 と、勝手にずんずん二階へと上がっていった…。

 その日の終わる前に、そいつが呪いを受けて、記憶を失っている、という話が広まっていた。
…と、言うよりそいつが広めて回っていた、という方が近い。
 なんでも、かえるにされていた所を、森の神殿に住む賢者のラドゥに拾われて、ヒトの姿にしてもらったんだそうな。
 まゆつばっぽい話じゃあるが、あいつも賢者ラドゥの名を使ってほらを吹くほどの馬鹿じゃないだろう。 …と、いうことで、酒場のみんなの意見は一致した。



ミンス小伝(後)に進む
小さな本棚・トップに戻る
ページトップにもどる