哲っちゃんのハチロク日記

第八号
98/6/6発行

いいひと

「レッカーですわ」
ふにゃふにゃぁ〜と体の力が抜けた。「よかったぁ、よかったですぅ」
本当によかった。

盗難とレッカーでは雲泥の差である。
とりあえず、住○江警察署へ向かった。
それにしても、警察の取り締まり方がいいかげんすぎる。路駐していたのは悪かったが、雨が降るのは分かってるんだから、それなりの方法をとって欲しい。あれでは、警察による盗難である。だんだん怒りが湧いてきた。

住○江警察署で対応した警官に向かって「盗られたんかと思いましたよ。あれなんとかしてください」と言うと、「いやぁ、うちの署だけで決めれるもんじゃないしなあ。」とめちゃくちゃてきとーである。
こちらは心臓が止まるような思いをしているので引き下がる訳にはいかない。
「それでも、あれはひどいですよぉ」と言うと、「そうやなぁ、言うとくわ。」と、ほんまかいやというような答えが返ってきた。

納得がいかないまま、事務的に書類を書かれ、レッカー代をいついつまでに持ってこいだ、反則金を払えだいわれた。
そして、「車はどこにあるんですか?」と聞いたら、うちの会社のそばの駐車場を言われた。
(「ちょぉ待てや!また電車に乗ってもどらんなんやんけ!げっ?!11時。電車動いとんか?」)
とりあえず、電車は動いていたので車を取りに行った。駐車場に着き車を見ると、ご丁寧に「この車を勝手に持っていくと罰せられることがあります」とかなんとか書いた紙がはさんである。「うるさいんじゃ、ぼけぇ。勝手に持って行ったんは、お前らじゃぁ!」

私はつれに「レッカーされたわ。ヒャッヒャッヒャッ」と電話をし、とりあえず夜も遅いので帰ることにした。
「ウーン、今日も絶好調!」と、少し怒りも収まり、走っていると、時々下から何か変な音がする。最初は気のせいかなぁと思っていたのだが、確かにゴッ、ゴッ!と何かがフロアに当たる音がしている。その音は、だんだんとひどくなっていき、最後にはフロアからエンジンの振動がビビビビーともろにくるようになった。

やられた!レッカーの時、何かされた!と直感し、雨が降っているので屋根があるボーリング場の駐車場に入った。ジャッキで持ち上げ、下をのぞいたが、いまいち何処が悪いのか分からない。よーく見てみると、マフラーの後ろ寄りの中間タイコの下が変にへこんでいた。どうも、タイコを持ち上げたため、全体的に上にもちあがり、マフラーのフロント部分がフロアに接触しているらしい。

私は、完璧に切れた。心臓の止まるような思いをさせられ、金をふんだくられ、挙げ句の果てに車傷付けられて・・・・絶対文句いうたる!!!
家に帰って、私は勢いのまま番号案内で住○江警察署の番号を聞き、すぐに電話をかけた。
「今日ねえ、レッカーされたんですけどぉ、マフラーへこまされたみたいなんですよぉ。どうしてくれるんですかねぇ!」
新品にさせるぞ、ぼけぇ!と言わんばかりの勢いである。
しかし、向こうはこちらの怒りなどつゆ知らず、という感じで「いやぁ、私担当じゃないんでよくわからんのですよ。明日の朝またかけてきてもらえます?」
と、ボケたことをぬかしやがった。
まあ、こいつに言うてもしゃあない。よっしゃ、分かった。明日かけたろやんけ!とその日は寝た。

次の日、仕事の合間に電話をかけると、交通課の担当者らしい人が出てきた。昨日と同じ調子で文句をたれると、
「一度、レッカー屋に連絡して、それから電話する」と言われた。
ちょっと待ってから電話がかかってきて、「どんなんなってるか、レッカー屋と一緒に見てやるから持ってこい」(本当はここまで強い口調ではないが、内容はこんな感じ)と言われた。

私は、仕事が忙しかったのもあるが、よく考えると触媒がついてないなあ、と思い「今日はちょっと・・・」と答えたのだが、「はよせんと、分からんようになる!」と、こっちが被害者なのに強気で言われたので、「よっしゃ、行ったらあ!」ということになった。

午後5時。私は果敢にも、コテコテにチューニングされたハチロクで警察署に乗り込んだ。
交通課のレッカー関係のところに行くと、電話で対応したらしい人がでてきた。レッカー屋の人もきているらしい。
下から覗けるピットがあるのでそこに持っていく様言われた。

持っていくと、ピットには囚人かなんかを運ぶでっかいバスが入っている。いろんな人が乗って動かそうとするのだが、みんな動かし方が分からないらしい。
とりあえず私とレッカー屋のおっちゃんは「○○○さん(私の会社の名前です)か!この前ワープロが壊れてお世話になったとこやわ。」「ああ、そうなんですか。でも最近ワープロは使いませんからねえ」とか気楽に話をしながら待っていた。
バスを動かすだけで大事となり、バスが動いたときには、私のハチロクはポリの集団の真っ只中にいた。只ならぬ空気が漂っている。ようこんなんで来たなあ、という感じでみんなが見ている。

やばいなあ、と思ったがこちらは被害者なんだから強気でいこう!とそしらぬ顔をしていると、私からの電話をうけた人が、俺の車を不安そうに見ながらいった。(以下、Pはポリスマン)

P1「これは、車検通ったんやんな?」

わたし「実は、触媒がないんでこのままでは・・・・(小さな声で)」

P1「なにそれ?」

わたし「えっ?!いや、排気をきれいにする・・・」(おいおい、触媒知らんぞ!!)

P1「ふーん?!」

わたし(おいおい、どないなっとんねん?)

いきなり、私は不安になってきた。
とりあえず、ピットに車を入れ、レッカー屋のおっちゃん達(2人いた)と一緒に下から覗いてみる。おっちゃんは、「確かにへこんでるなあ、悪かったなあ」と、あっさりと認めている。レッカーで持っていったんはどんな奴やねん!と意気込んで来たが、思いのほかいいおっちゃんである。
さあ、どうしようかということになったが、とりあえずピットから車を出した。
外にはまだ、ポリスマン達がうようよしていた。(お前ら暇なんかい!)
どうしようかなあと話していると、一番態度のえらそうなポリスマンがやってきた。
ここからは皆さんお待ちかね、彼らとの訳の分からん会話である。(以下、会話形式)

P2「レースやってるんか?」

わたし(「やっぱり来たか。あんたら、レースしか知らんのか」)「そうなんですよぉ。」(「走行会いくつもりやからよしとしよう」)

P2「ふーん。これは、バネ縮めてるんか?」

わたし(「縮める?なにいうとんねん。遊ぶかってのは聞かれた事あるけど、そんなん聞かれたん初めてやわ。遊ぶやつをくくりつけてるってことか??」))「えっ?遊んでないですよ!」

P2、3「いや、こう、バネ縮めるやつでやなあ車高を落して・・・(身振り手振り説明してくれる)」

わたし(「それヤンキーちゃうん?いや、今時そんなんヤンキーですら付けへん。俺、昔こうたっちゅうねん。俺のは車高調や!!それに、前の車はちゃんとこれつけて車検クリアしたわ!!)「いえいえ、これは車検に通るように、遊ばない様に作ったですねぇ・・・」

P全員「・・・・」(良く分からないらしい)

少しの沈黙の後、彼らは最終手段にでた。

P2「車検証見せてみい!」(昔いつも峠で出くわした、えらそうなポリの態度になってきた)

わたし(「そらきた!!」)

私はしぶしぶ車検証を見せた。

P2(車検証をみながら)「改造車検とってないやないか」(更に威圧的になってきた。彼らには改造車検の記載は効果絶大らしい)

P3、4「とってないですねえ」(「うんうんやっぱり。こいつはだめだよ。」とばかりに、周りのやつまでみんな得意げ。集団のいじめみたいである。)

わたし「・・・・」(「書いたるだけでええんか?とらんでも通るパーツは通んねん。まあ、確かにエンジンは開けるとやばいけど」)

自分達のペースに持込んだと思ったのか、若いがたちの悪そうな奴が、中を覗きながら口を挟んできた。

P3「これ、このロールバー。ロールバーは後ろは認めてるけど前はまだ認められとらんはずや」(俺の出番だ!って感じでノリノリである)

わたし「いや、パット巻いてるから・・・」(「突然出てきて・・・おまえ、だれやねん!」)

P3「パットとか関係なしにやなあ、前はやなあ、あかんはずや!!」(あんた、なにもん?ってくらいでかい態度。自信が無いのか勢いで押してきた)

わたし「はあ・・」(「はずや!いわれても・・・そうやったっけ??)」)

そして、彼は歩きながら、最後に決め台詞をかっこよく決めるかのごとく言い放った。

P3「全部、バケットシートとか改造車検受けてやなあ」(決まったぜ!俺はちょっとは知ってるぜ!とばかりにパーツの名前を並べて、とっても得意げ。なんか、はったりこきのえらそうな先輩みたいである。)

しかし、本人は気づいていないが全然かっこよく決まらなかった。知識が中途半端すぎた。

わたし(「バケットシートって・・・こいつあほちゃうか?見て分からんのんか?バケットは車検対応のブリッドの、それもリクライニングやぞ?!」)「そうですねえ・・・でもバケットは車検対応の・・・」

と言いかけたが、彼は言いたい事だけ言うと、満足そうに何処かへ行こうとしていた。彼の中ではカッコ良く決まったらしい。なんじゃ?おまえは?と私の頭の中には?マークがいっぱい飛んでいる。

するとまたもやえらそうな人が聞いてきた。入れ替わり立ち代わりである。

P2(車高をマジマジと見ながら)「これでは車検は通らんやろ!」(かなり威圧的。怒涛のように休む間もなく攻められ続ける)

わたし「いや、これで通りますよ!」(「確かにマフラーは触媒ないけど、足は通るっちゅうねん。」)私も負けてはいられない。

P全員「えっ?!これで通るんか?」(一同,驚く。みんな「なんですと?!」っていう顔をしてザワザワしてる)

わたし「通りますよぉ」(ちょっと高飛車で答えてやった。彼らは何も知らないらしい。)

またもや何処かへ行ったはずの若造が現れ、これでもまだ納得いかないという顔で聞いてきた。

P3「いつ通ったんや?」(自信がなくなってきたようだ)

わたし「去年です!」(「勝った!」)

これはまずいと思ったのか、えらそうな人が突然、話題を切替えた。

P2「○○○のソフトウエアで働いてるんやろ?」

わたし「そうです」

P2「天下の○○○さんのソフトウエアの顔としてやなあ、こんなん乗っとったらあかんで」(○○○を何回も妙に強調する。それに人の愛車を「こんなん」呼ばわり))

わたし「ははは・・・」(「天下のて・・・・俺、顔ちゃうちゅうねん!平(ひら)やっちゅうねん。給料めちゃ安やっちゅうねん。それに・・・そもそも会社関係ないやん!」)

P2「こんなん乗らんと、ノーマルに乗ってやなあ」(結局、話の内容は変わっていない)

わたし「はあ・・」(「なにがおもろいねん。おもんないからこんなん乗っとんじゃぁ、ぼけぇ!」)

と、まあ本当に延々とまったくわけの分からん会話が続いた。私が被害者だということは、彼らの頭には全くない。ただ、いけすかん車が目の前にあるから攻めろ、攻めろ!って感じである。
それにしても一体、この人たちは何年前の頭なのだろう?車検制度が大幅に変わった事すら全く知らなそうである。そしてそれを、なんとも思わず「俺が法じゃ!」とばかりに堂々としている。
この日の収穫は、彼らポリスマンは何も知らない、言っても無駄だということが分かった事くらいであった。

このような状況におかれている私をかわいそうだと思ったのか、レッカー屋のおっちゃんがポリスマンに向かって「もうええんなら、一緒にうちの関係の工場に持って行ってなおそうと思ってるんですけど、いいですかね?」と言ってくれた。
(「おっちゃん、ナイス!」)私は心の中で叫んだ。すぐに行こうとしたが、良く考えると、レッカー代をポリ署に払っていない。

おっちゃんに、「払うからちょっと待ってて」というと、おっちゃんは、「うちが悪かったし、それ払わんでええようにならんか交渉してあげるわ」とまたまたやさしい言葉をかけてくれた。
結局、ポリスマンの「そんなん、駄目やわ」の一言で払う羽目になったのだが・・・。
おっちゃんは「いつもうちにお願いばっかりしてるくせに、たまにはこっちのお願いを聞いてくれてもええもんやのに。力が足らんでごめんな」と言ってくれた。おっちゃんの心意気に乾杯って感じである

工場に着くと「結局、警察にさからうだけ無駄やわ」とか「あいつらはあかん」とかレッカー屋のおっちゃんと工場のおっちゃんとでいろいろ言ってる。
おっちゃんは「明日、ボルト緩めてマフラーを下に引っ張るみたいにして直そうか。朝持ってきてくれたら会社まで送ってあげるし、車が直ったら会社に持っていってあげるわ」と言ってくれたが、会社に堂々と車を置く事はできない。
「いやぁ、会社に置かれへんから道に置いてたらもっていかれたんですわぁ」と言うと、おっちゃん達は
「ハッハッハッ!そうやったなぁ」と笑っていた。

最初は、新品のマフラーでも買わしたろか!という勢いで警察署に乗り込んだわけだが、あまりにもレッカー屋のおっちゃんがいい人だったのでこれ以上言うのは悪いと思い、「忙しいのでなかなか取りに来られへんし、なんとかなると思うから、自分で直しますわ」と言った。
するとおっちゃんは、ちょっと考えてから「悪かったなあ。よっしゃ、分かった。おっちゃんがレッカー代返すわ。13000円やったかな?」と、思いもかけなかったことを言ってくれた。
ああ、なんていいおっちゃんなんだろう。レッカー代が実は14000円だなんてちゃちなことはこの際関係ない。

「えぇ!?いいんですか?」と言うと、おっちゃんはお金を出しながら、
「おっちゃんがポケットマネーではろとくわ!今日のあいつらの態度には、ちょっと腹が立ったからなぁ」と言った。

めちゃくちゃうれしい。今月は家計がマイナス街道を突っ走っている。
「ありがとうございますぅ!実は今日先輩にお金借りて払ったんですよぉ。助かりますぅ。」
(私はレッカー代、反則金等全て先輩に借りた!!)私は心から感謝した。
「そうかぁ。かわいそうになぁ。はい!」と、おっちゃんは私に13000円を手渡してくれた。
おっちゃんの財布の中には、あと5000円くらいしかない。
ちょっとかわいそうになって「ほんまにええんですか?」と言うと、おっちゃんは武士に二言はないという感じで「いい、いい。」と言ってくれた。

私は何度もお礼を言い、警察署での出来事も忘れ、さわやかな気分で、下からゴンゴンいう車に乗って会社へと帰っていったのでありました。

後日休みの日に、マフラーの接続部のボルトを緩め、なるべく下に引っ張ってボルトを締め直すという方法で対処しました。ずっと大丈夫だったのですが、最近また、たまに音がします。

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