21. クラビーの月



 私たちを乗せた車が黄昏のクラビータウンを走る。
人々が家路を急いでいる。クラビーの月
なんどか交差点を曲がり、郊外の広い道に出た。
道端の看板に「AIRPORT」の文字がある。
空港が近づいたようだ。
窓からきれいな満月が見えた。
私はしばらく、日本の月と同じ模様だなぁ、とぼんやり眺めていた。

 やがて車は空港の玄関に滑り込んだ。
さくらのご主人にお礼を言い、中に入る。
すでにチェックインが始まっているようだった。
カウンターに行き、手続きをする。
隣り合う席は取れなかった。
ヒロコは不安がっていたが、飛行機はこれしかないのだから仕方がない。

 搭乗が始まり席に行くと、私が座る周辺、3・4組のペアの座席がゴチャゴチャになっていた。
そこを美人のスチュワーデスが席の交換をうまくやり、みな隣同士で座ることができた。
安心して離陸を待っていると、遅れてきた中国人風の老夫婦が、正規の座席に座れないと、ごね始めた。
困ったスチュワーデスは、私のところに来て、
申し訳ありませんが、あの(わがままな!)老夫婦が隣の席に座りたがってるので、
席を譲ってくれませんか?

と聞いてきた。
美人の頼みなら、断る理由はない!
私は笑顔で応えて席を移動した。

 離陸してしばらくすると、さっきのスチュワーデスが袋を持ってやってきた。
さっきはありがとう
と言い、私にそれを手渡した。
中に入っていたのは、「101匹わんちゃん」の絵本、「くまのプーさんのシール」、
「小さなパズル」とこれまた小さな「ルービックキューブ」、ペットボトルに入った甘い甘いコーヒーだった。
もう少し、実用的なものが欲しかったなぁ。

 やがて飛行機はタイ国際空港に到着。
荷物を受け取り、国際線ターミナルへ移動。
バス乗り場を探すのがめんどうだったので、カートを押して歩いたのだが、
連絡通路の遠いこと遠いこと・・・
たっぷり15分はかかっただろう。

 搭乗手続きをし、免税店でお土産を買う。
職場用にチョコを買ったが、はっきり言って高い!
日本で買うより高いんとちゃうか!?

 搭乗口付近でイスに座っていると、だんだん日本人が増えてきた。
久しぶりに大勢の、あつかましい日本人(もちろん私もだが)を見たので、少しうんざりし、
この場から離れたい気分になった。

 出発時間が近づき、乗員らしいタイ航空の制服を着た団体がやってきて、
私たちの周りでだべり始めた。
そして、一人の男がやってくると、皆が一斉に手を胸の前で合掌し、丁寧にあいさつした。
どうやら、その男は機長のようだ。
これが、私にタイを実感させる最後の出来事だった。



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