私たちを乗せた車が黄昏のクラビータウンを走る。
人々が家路を急いでいる。
なんどか交差点を曲がり、郊外の広い道に出た。
道端の看板に「AIRPORT」の文字がある。
空港が近づいたようだ。
窓からきれいな満月が見えた。
私はしばらく、日本の月と同じ模様だなぁ、とぼんやり眺めていた。
やがて車は空港の玄関に滑り込んだ。
さくらのご主人にお礼を言い、中に入る。
すでにチェックインが始まっているようだった。
カウンターに行き、手続きをする。
隣り合う席は取れなかった。
ヒロコは不安がっていたが、飛行機はこれしかないのだから仕方がない。
搭乗が始まり席に行くと、私が座る周辺、3・4組のペアの座席がゴチャゴチャになっていた。
そこを美人のスチュワーデスが席の交換をうまくやり、みな隣同士で座ることができた。
安心して離陸を待っていると、遅れてきた中国人風の老夫婦が、正規の座席に座れないと、ごね始めた。
困ったスチュワーデスは、私のところに来て、
「申し訳ありませんが、あの(わがままな!)老夫婦が隣の席に座りたがってるので、
席を譲ってくれませんか?」
と聞いてきた。
美人の頼みなら、断る理由はない!
私は笑顔で応えて席を移動した。
離陸してしばらくすると、さっきのスチュワーデスが袋を持ってやってきた。
「さっきはありがとう」
と言い、私にそれを手渡した。
中に入っていたのは、「101匹わんちゃん」の絵本、「くまのプーさんのシール」、
「小さなパズル」とこれまた小さな「ルービックキューブ」、ペットボトルに入った甘い甘いコーヒーだった。
もう少し、実用的なものが欲しかったなぁ。
やがて飛行機はタイ国際空港に到着。
荷物を受け取り、国際線ターミナルへ移動。
バス乗り場を探すのがめんどうだったので、カートを押して歩いたのだが、
連絡通路の遠いこと遠いこと・・・
たっぷり15分はかかっただろう。
搭乗手続きをし、免税店でお土産を買う。
職場用にチョコを買ったが、はっきり言って高い!
日本で買うより高いんとちゃうか!?
搭乗口付近でイスに座っていると、だんだん日本人が増えてきた。
久しぶりに大勢の、あつかましい日本人(もちろん私もだが)を見たので、少しうんざりし、
この場から離れたい気分になった。
出発時間が近づき、乗員らしいタイ航空の制服を着た団体がやってきて、
私たちの周りでだべり始めた。
そして、一人の男がやってくると、皆が一斉に手を胸の前で合掌し、丁寧にあいさつした。
どうやら、その男は機長のようだ。
これが、私にタイを実感させる最後の出来事だった。
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