22. いつか、きっと


 搭乗が始まり、バスに乗る。
座席は空いてなく、つり革につかまって立った。
バスに乗る時間はせいぜい2、3分かと思ったら、延々と走り続ける。
同じような景色の空港内を10分近く走っただろうか、やっとこれから乗る飛行機にたどり着いた。

 あたりまえだけど、機内はほぼ全員が日本人だった。
ヒロコが窓側の席に座り、私が左隣へ。
私の隣に座ったおっさんから、プ〜ンとアルコールの匂いがする。
しかもスルメを食っている。
臭いぞ!おっさん!!

 飛行機はなかなか出発してくれなかった。
乗ってから20分ほどしてからだろうか、日本語でアナウンスがあった。
「当機は現在、故障箇所を整備中です。もうしばらくお待ちください」
おいおい、うそやろ!?
なんぼでも待つから、ちゃんと直してよ!

 なんとか飛行機は離陸し、日本へ。
しかし、あいかわらずサービスの波状攻撃で眠らせてくれない。
明け方、窓から夜明けの太陽を見た。
飛行機から見る朝日は初めてだ。
さすがに高度8000mから見る太陽は美しく、空の色も幻想的だった。

 朝6時過ぎ、関空に到着。
荷物を受け取り、検疫へ。
軽い下痢は続いていたが、何も申告せず通過。
入国審査を済ませ、税関を通り、外へ出る。
やっと日本に帰ってきた。
さすがに1月下旬の気温は低い。
あるもの全部着込み、JRの乗り場へ行く。
あとは環状線、私鉄を乗り継ぎ家へ。

 いつも乗る電車なのに、風景が違って見えた。
外国から帰ると皆、こんな感覚になるのだろうか。
タイに行って自分は何か変わっただろうか・・・







 今は数ヵ月後・・・
また今は仕事に追われ、週末に岩場で憂さを晴らす日本の生活が当たり前になってしまった。

 タイでのクライミング、それは今思えば夢のようなできごとだった。
美しい風景、美しいルート、美味しい食事、快適なバンガロー。
鬱陶しい日常生活を忘れ、ただ、食って、寝て、登るだけの生活・・・

 出発するまでは不安もあったが、行ってしまえばおもいっきりクライミングを楽しむことができた。
こんなに純粋に楽しんだことが、今まであっただろうか。
タイでのクライミングは、自分をリセットする旅だった。
この先、新たな気持ちでクライミングを楽しむことができるだろう。

  そして、いつかまたこの地に戻ってきたい。
砂浜を歩き、椰子の木陰で昼寝をし、何もしない贅沢な時間を過ごそう。
今も目を閉じると、 はっきり見える。
茜色に染まるアンダマン海に、夕日がゆっくり沈んでいくプラナンの風景が・・・


                     アンダマンの夕日



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