「おう、お帰り菜々子ちゃん。遅かったな馬鹿息子」
居間に入るなり、縁側であぐらをかき、いつものように新聞を読む振りをしながら、Hな雑誌を読
んでいる南次郎が出迎えの挨拶をする。物凄い違いはあるが……。
「アナタ! お客さんなんですから、今すぐソレをしまって下さい。でなければ、全部焼きますよ?」
「し、しまいます。今すぐに!」
越前家で一番強いのはどうやら倫子のようだ。
まあ、この家の大蔵省は彼女なのだから当然なのだが。
「勝手に座ったら?」
慌てる南次郎を呆れた眼差しで見ながら、さっさと畳に座り込む。
渋々だがリョーマに勧められ千石は嬉しそうに、跡部も表情には出てはいないが雰囲気が少し変わ
ったので、やはり嬉しいのかもしれない。
「で、お前ら名前は? それとどうみてもリョーマと同じ年には見えねぇけど、どういった知り合い
だ?」
倫子と菜々子が用意したお茶を全員が一口飲み、喉を潤した時、先陣をきったのは南次郎だった。
そういえばまだ名前を聞いていなかったと、倫子も聞きの体勢に入っている。
「じゃあ、まずオレからいきますね。千石清純です。山吹中三年でテニス部のエース。去年はJr.選
抜にも選ばれました。リョーマ君とは青学に偵察に行った時にボールをぶつけられたんです」
「あぁ、アンタあの時の!」
漸く思い出したようだ。
正確には思い出したのではないのだが、一応頭の片隅に覚えて貰っていたみたいなので、千石は嬉
しそうにそうだよと頷くのだった。
「リョーマ……」
倫子は息子の行動に呆れていた。
南次郎はリョーマの行動にお前らしいとクックックッと笑っていた。
「で、お前さんは?」
暫く笑って気が済むと、もう一人、跡部に振った。
「俺は氷帝学園三年の跡部景吾です。テニス部所属で部長をしています。リョーマ君とは本日が初め
てなんですが、ライバル校でしかも一年でレギュラーを獲得した実力には興味があったので色々と情
報はありました」
「ふ〜ん。お前らもテニスすんだな。しかも、どっちもややこしい顧問だしよ」
意味ありげにニヤリとすると、すぐにリョーマが反応を返した。
「知ってんの?」
「ああ。山吹の顧問は伴じいっていって、いつもニコニコしてやがって、お前んトコのくそババア並
にくえねえジジイだ。しかも、俺が中学の時からジジイだから、年もとってるかどうか怪しいときた
もんだ。んで、次に氷帝だがな、榊っつーんだが、どこぞのホスト倶楽部のオーナーでもやってそう
な容姿の奴だ。しかも担当教科は音楽とかいいやがる。益々もって有り得ねぇ存在だ。口癖は変わっ
てねぇなら「行ってよし!」だ。動作付きでな。そして、ウワサでは榊の行ってよしが真似出来ねぇ
とレギュラーにはなれないらしいぞ」
「ホントなんスか?」
長い長い説明を聞き終えたリョーマは信じられないと、真相を確かめるために二人に問いかける。
「うわ〜。良く知ってますね」
「な、何故ご存知なんですか?」
千石は感心、跡部は驚愕という見事に対称な反応だが、それは南次郎の言葉を否定するものではな
かった。
「ホントなんスね…………アンタたちどんな学校通ってるんスか?」
「「…………」」
返答を控えた二人だった。
「……まぁ、いいけどね。別に。それよりも、アンタたちテニス部なんでしょ? こんなトコで話し
てるよりも、テニスしませんか?」
「いいねぇ」
「でも、あんのか?」
「裏手にお寺あったでしょ? アレ一応家の親父が管理してて、境内の中に勝手にテニスコート作っ
たんスよ。だから大丈夫っス。ただし、コートの質については文句は言わないで下さい。もちろん、
クレイコートですから」
リョーマの説明に作った本人は少し拗ねている。
「ウルセー。文句があんなら、使うんじゃねーよ」
「別に。で、どうします?」
あっさり南次郎の言葉を流すと、返事を促した。
「やるに決まってんだろ」
「リョーマ君とゲームだぁ。いいトコ見せなきゃいけないし、絶対に負けらんないなぁ。ねぇ、跡部
君」
「トーゼンだろ。まあ俺が負けることなんて有り得ないがな」
「何好き勝手に言ってるんスか? 俺が勝つにきまってるっス。アンタたちは俺の踏台なんスから!」
三人ともテニスに関しては異様にプライドが高い。
リョーマと跡部は普段でもそうなのだが、テニスに関しては引くということを絶対にしない。千石
もテニスに関しては二人に並ぶほどだ。なので、三人の間には火花が散り始めたのだった。
そんな少しピリピリとした空気に横やりを入れたのは南次郎。
ふざけた態度をとってはいるが、彼もまた、テニスに関してはウルサイのだった。
「おい、ガキども! そんなに自信があるんならこの南次郎様が実力を見極めてやるよ」
「え!? ホントですか? やっぱオ……」
「俺は毎日打ってんじゃん」
「気にすんな」
「ただ、アンタがこの二人とやりたいだけじゃん……」
「まぁ、そーとも言うな」
「…………」
南次郎は苦笑し、リョーマはそれを物凄く冷めた瞳で睨んでいた。
リョーマとは対称的に、引退したとはいえ、伝説のサムライと打ち合えるので二人は嬉しさと期待
が胸に広がっていた。
◆◆コメント◆◆
無事南次郎登場出来ました!!
本当は7・8・9の三話で一話分だったのですが、
今までがあまり長く書いてなかったので短く切ったんです。
次か、その次くらいで第一章は終わる予定です。m(__)m
2005.04.27 如月 水瀬