「ゲーム! 6−2。ウォンバイ、クソ親父」
ゲームの終局を告げたリョーマの声が境内に響く。
勝利したのは予想通り南次郎。
先に試合をした千石もゲームカウント6−2で敗北している。
最初はいくら相手は元プロだといっても2ゲームしか取れなかった自分の未熟さに落ち込んでいた
千石だったが、跡部も同じゲームカウントという結果なので、思考を自分たちが未熟なのではなく、
南次郎が強いのだと切り替えた。
実際冷静に試合を見ていると、彼は最初は様子見という感じで相手の実力や癖を見定めている。い
や、それだけではないように感じていた。とにかく、試合というよりも指導という感じで相手に自身
の欠点を気付かせ、直させようとしているのだった。
「……お疲れっス」
荒くなった呼吸を整えるためか、試合が終わってから一言も話さない跡部にリョーマはタオルを差
し出した。
黙って受け取ると溢れ落ちる汗を拭う。
「……サンキュ」
「いえ」
小さなお礼の言葉はしっかりリョーマに届いていた。
「あぁ〜!? リョーマ君ズルイ!! 何で跡部君にだけ!!」
「アンタ、ウルサイから」
「…………」
「フッ、日頃の行いの違いだな。これからは俺様のように冷静沈着な態度を取ることだな。まぁ、て
めぇには無理だろうがな」
完全に俺様な自分を取り戻した跡部は毒舌だ。
「酷いなぁ。リョーマ君も何とか言ってやってよ」
「俺をアンタたちの漫才に巻き込まないで下さい」
「アハハ、漫才って言われちゃった♪ コンビでも組む?」
「誰が漫才だ!! てめぇも笑ってんじゃねぇ! 否定をしろ! 否定を!!」
「跡部君的に言うと、めんどくせぇかな?」
「そのせいで変な誤解受けたらどーすんだ。アーン」
「大丈夫、大丈夫。人のウワサも45日っていうでしょ♪」
「75日でしょ?」
「アレ? そうだっけ? まぁ、そんな変わんない、変わんない」
リョーマに間違いを指摘されても、何等恥ずかしがる様子を見せない千石は大物なのか、馬鹿なの
か……
「「………………」」
笑う千石を呆れた目で無言で見つめるリョーマと跡部だった。
「クッ、ワハハハ!!」
今まで黙って三人のことを観察していた南次郎が突然笑い出した。我慢の限界がきたようだ。
「「「…………」」」
三人が呆然と見つめる中、彼は気の済むまで笑い続けるのだった。
「お、お前等……クッ…最高! ハハハハハ。よしっ! 気に入った。暇があったらいつでもここに
来いや。おじさまが相手してやるよ!」
「「本当ですか!?」」
「おう!」
「な、何勝手に決めてんだよ! 俺はそんなこと認めてない!」
「何でお前の許可がいるんだ? 家長のこの俺が言ってんだ、なんの問題もねぇ」
「アンタはただのクソ坊主だろ! 母さんがなんて言うかわかんないだろ!!」
「まだまだ甘いなリョーマ。あの母さんだぞ? お父様と同じく、気に入るに決まってんだろ」
「…………」
南次郎の言葉にリョーマは反論出来ず沈黙してしまう。
「丁度良かったみたいね。」
話題の人物倫子がストップウォッチでタイミングを計っていたかのように現れた。
「おう、母さん。コイツ等気に入ったぞ」
「そう。もうすぐでご飯出来るから、汗を流してらっしゃい。リョーマ、タオルの用意してあげてね」
「は?」
自分の聞き間違いだと思いたくて、リョーマは聞き直した。
「聞こえてなかったの? 跡部君と千石君の分のタオル用意してあげてねっていったのよ。そうそう、
一人ずつだと時間がかかるから三人まとめて入ってね。大きめに作ったからたぶん大丈夫だと思うか
ら」
「ちょ、ちょっと待って!」
暴走している(リョーマにとっては)倫子を止めようと必死な声をあげた。
それに返す倫子はのんびりとしたものだ。
「なあに?」
「母さん俺の話聞いてた? この人たち今日初めて会った人だよ?」
「えぇ、わかってるわよ」
「だったら何で、一緒に風呂入らなきゃなんないわけ? フツーはそんな展開にはなんないだろ!」
「リョーマ。この家に一般常識をあてはめちゃ駄目よ。お友達になったんだから、つべこべ言わずに
お風呂に入ってきなさい!」
「っ!!」
倫子の勢いに圧されリョーマは言葉に詰まる。そして、その隙を見逃さない倫子はリョーマの背を
グイグイと押し、跡部と千石の方へ。
「ほんと仕方のない子でごめんなさいね。菜々子ちゃんがいるから、彼女に場所とか聞くといいわ。
あと申し訳ないんだけど、リョーマもつれて行って貰えるかしら?」
「「はい、ありがとうございます」」
二人は固まりかけているリョーマを引きずって境内を後にするのだった。
◆◆コメント◆◆
今回のメインは両親が二人を気に入るということです♪
リョーマは展開についていけてないです(笑)
管理人の中の倫子のイメージはこんな感じで最強なのですD
彼女に勝てる人物がいるのかどうか……
次で本当に第一章は終わりです。
キリが良いので、明日UPさせます。ではでは、また明日〜♪
2005.04.29 如月 水瀬