「……なんで俺だけ」
一緒に来たはずだ。握られた手の感触もしっかり残っている。なのに何故今現在自分はこの暗闇の
中一人座り込んでいるのだろうと甚だ疑問である。
以前飛ばされた時はタイミングが異なった。つまり異なる場所に飛ばされてもそれは仕方のなかっ
たことだと判断出来る。しかし今回はずっと一緒で、手も繋がっていた。離されまいと自分からもギ
ュッと握り返していたのだ。普通なら同じ場所に辿り着くのではないだろうか……。けれど現実はそ
うではなかった。
「…………?」
待っていても迎えはないだろうとどこかで感じる。
暗闇に慣れた瞳で辺りを見回す。道は前と後ろ。洞窟みたいなところかと思うが道は舗装されてい
るので人工的に造られた通路だろう。しかし灯りを置くだろう台が設置されているがここ最近使われ
た形跡はなく、朽ちかけている。光が入る隙間など全くない。けれど何故か自分の周りだけ微かに光
っている。その光源は……
「これ……あの時の」
リョーマの掌の上で微かに発光しているのは以前飛ばされた国で気配を消すために付けられていた
アンクレットだった。ほぼ着の身着のままで来たリョーマだったが無意識にコレだけはポケットに入
れていたのである。なんとなくの行動だったがそれがこんな時に役立つとは思いも寄らなかった。
「行くしかないよね……」
呟いた言葉に反応するかのようにアンクレットの光は一条の光となって前方を指し示す。
「そっちに行けってことだよね……。まぁ、なんとかなるだろ」
何かに導かれるように光の筋の先を目指す。
不思議なことに不安はなかった。寧ろどこか懐かしい感じが胸に広がっていく。
いくらも歩かない内にそれは現れた。
行く手を阻むためのものではなく誰かを迎え入れるためのもの。その証拠に近付くと重厚な扉はゆ
っくりとけれどその重みに反して何の音もなく静かに開いていく。
「……」
掌のアンクレットを一度強く握り気合を入れると扉を潜った。
こじんまりとした空間。畳4畳ほどの広さだろうか。そこにはテーブルやイスなどもなく、恐らく
腰掛け用と思われる大きな石が三つ徐に置かれているだけだった。
「……誰もいないし何もないじゃん」
せっかく気合を入れたというのに無駄だったと機嫌は下がる。
その時、掌から熱いと感じるほどの強い光が溢れ出す。それと同時に入ってきた扉がバタンと音を
立てて閉まり、閉まったかと思うと一瞬にして跡形もなく扉は消え失せた。目の前に見えるのは石の
壁だけ。
閉じ込められてしまった。
「……っ…やられた」
悔しそうに声を漏らすも返事はなく、ただ空間の中で反響している。
手の中の熱はいまだ冷めることを知らず、原因とも言えるそれをリョーマは床に投げ捨てようと腕
を振り上げたのだが未遂に終わった。
「何?」
腕を振り上げた拍子にアンクレットはリョーマの手を離れ、三つある内の一つの石の上で空中停止
する。そして一際輝きを増し、余りの眩しさに瞳を閉じたリョーマの目の前に人影らしきものが現れ
た。瞳を閉じているリョーマの目前でそれは確実に形を成していく。やはり人だった。
ゆっくりと現れた人物はリョーマの良く知る者に似ていた。
『漸く会えた……』
それは耳に届いたものではなく、頭の中に直接届いた声だった。
自分に向かって語っているのが分かるので恐る恐る目を開ける。
「?……っ…母さん!? 何…で……」
突然目の前に現れた人物の姿は母倫子にそっくりだった……
◆◆コメント◆◆
迎えが来ないことに鋭く気付いたリョーマは
やはりじっとしていませんね(笑)
まぁ、じっとしてられても話が進まないので困るのですが……
目の前に現れたのは……
簡単ですね。でもここでは言いません。
次回まで持ち越します。
持ち越す意味がどこにあるのか全く分かりませんが(苦笑)
それではまた!!
2006.08.26 如月 水瀬