「ねぇ跡部君」
「あぁ?」
どうでもいい内容ならぶっ飛ばすみたいな機嫌の悪さ。結局昨日は千石も跡部の部屋に強引に泊ま
り込み、朝から機嫌の悪さは最高潮である。その原因である千石は跡部と正反対でご機嫌はいつもな
がら好調のようで、これからリョーマに会えると思うと更に表情は緩んでいる。そう二人は仲良くで
はなく仕方なく一緒に歩いていた。朝一でリョーマからメールが入り、その待ち合わせ場所に向かう
ために。しかし、ふと疑問に思ったことが一つ。それを隣にいる跡部に聞いたのが冒頭の台詞であっ
た。
「何でラケット?」
「テニスするからだろ?」
「いや、うん。それは俺でも分かるんだけどね。何でいきなりテニスなのかなぁって思って」
「俺が知るか!」
「まぁ、リョーマ君に直接聞けばいっか♪」
リョーマのメールには条件が付けられていた。それはテニスラケット持参のことと……。
「遅い!!」
漸く到着した二人を待っていたのは待ちくたびれたリョーマの怒鳴り声だった。昨日の困惑した様
子は一切見受けられないリョーマの態度に二人は呆れながらも安堵していた。
「遅いってお前な。今何時だと思ってやがる」
「朝の6時じゃん。何、景吾寝惚けてんの?」
何を言ってんだとばかりに答えるリョーマの態度にさすがの跡部も怒りが沸いた。
「お前がメールしてきた時間が何時だか分かってんのかっ!!」
「え? 5時45分だけど?」
何か文句があるのかと更に火に油を注ぐような答え。
「んな時間に普通人が起きてるかどうかぐらい考えなくても分かんだろーが!!」
「だから何?」
跡部が声を荒げようがリョーマにはどこ吹く風。負けじと俺様気質を前に押し出す。
「さすがの俺様にだってなぁ、出来ることと出来ねぇことがあんだよ!! 15分でここまで来てや
ったんだ文句言われる筋合いはねぇ!!」
「何それ? 俺が来てって頼んだんだからちゃんと時間通りに来るのが常識でしょ。これからいつ出
来るか分かんないんだから思いっきりやりたいって思っても仕方ないじゃん」
「お前……」
「リョーマ君vv」
「って、ぅわあ!? 何すんのさキヨ!!」
突然後ろから何かが覆い被さってきた。何とか無様にこけることはしなかったが重いのが正直な感
想。いつまで経っても始められないのとでリョーマの怒りゲージはどんどん上昇していく。
「だって嬉しいからvv」
「……俺は嬉しくない。だから早く退いて!!」
「イ・ヤ♪ でも、ありがとう。本当にありがとう♪ キヨ今まで生きてきた中で一番幸せだよvv」
「そうか。なら今すぐ死ね。もう心残りはねぇしな」
「ひ、酷っ! 跡部君最近俺に対して冷たすぎだよぉ〜」
「……殺す」
「あはは。ジョークだよジョーク、ね?」
「……絶対殺す」
「えぇー!? ちょ、ちょっと落ち……」
「ダメ!! これからテニスするんだから。その後にして」
何気に奈落の底に突き落とし、止めを刺したのはリョーマだった。本人に自覚があるのかは定かで
はなかったが……。千石はコートの外にあるベンチの側にしゃがみ込み地面にのの字を書いている。
リョーマと跡部は冷たい視線を送るだけで何も言わない。だが、それこそが一番効果覿面だったりす
るのだが。
コートにはスパーン、スパーンと軽快でリズミカルな音が響いている。狂うことのないそのテンポ
から試合ではなくラリーであることを証明している。けれどそれで充分なようだ。打ち合う三人、正
確にはコートに二人とベンチに一人なのだが、彼等の表情はとても満ちたものであり、楽しそうであ
った。そう、中学生らしい年相応とまではいかないが誰が見てもはっきりと分かるぐらいには表情を
出していた。
「あっ……」
らしくないミスだった。スイートスポットから外れた場所で打ってしまったボールはそれまでのリ
ズムを狂わせ、弧を描くロブとして返球された。絶好のスマッシュボールだったが、その時のラリー
相手だった跡部はスマッシュを決めることはなくリターンさえもせず速さのない緩やかなボールを難
なくキャッチした。
「景吾?」
「休憩するぞ」
「そうだねぇ。もうかれこれ3時間くらいぶっ通しだし、お腹もすいてきたでしょ?」
そう言われた瞬間リョーマのお腹が空腹を訴え始め小さく鳴いた。
「すいた……かも?」
「……何で疑問系なんだよ」
「何となく?」
「あはは。まぁいいじゃない跡部君。可愛いんだし♪」
良く分からない理屈である。が、言われた本人は当然面白くない。ほっぺをぷぅっと膨らませ千石
から顔を逸らせた。しかしそんな態度も千石には可愛いものとしか写らないことにいまだ気付かない
のであった。
「ごちそうさまっス」
「相変わらず良く食べるねぇ♪」
「まぁ、栄養がどこへいってんのかは疑問だがな」
「うっさい!! その内景吾もキヨも追い越してやるんだから覚悟しとけよ!!」
「無理だと思うよぉ」
「無理だろ」
「うるさい、うるさい、うるさーい!! 仕方ないから俺もそっちの世界行くけどまたこっちに帰っ
てくるんだから。で、それからはちゃんと牛乳飲んで二人よりもでかくなるんだ!!」
「リョーマ君エライ!」
「まぁ頑張んな」
どう聞いても馬鹿にしているようにしか聞こえないリョーマは心の中で決意を新たにするのだった。
◆◆コメント◆◆
親が親なら、息子も息子です(^_^;)
まぁ、主人公なんだから当然なんですがね♪
この回も前回同様スラスラ書くことが出来ましたvv
だって、ギャグ(?)は書きやすいんです!!
シリアスは難しいんです!!
だからどうしても水瀬の話はシリアスに徹しきれない……
素敵なシリアス話を書ける方が羨ましいです(><)
さて、漸く次が三章のラストになります♪
話数は短いのに、UPし終わるのにもの凄く時間が……
8月までにはUPしようと思っています。
それでは〜
2006.07.15 如月 水瀬