君という光 第三章 6


  





 その世界は自然豊かな世界だった。

 人と精霊が仲良く語り合い、時には助け合いながら生きていた。

 全ての人が精霊の力を使役出来るというわけではなかったが、それでも多くの人がその姿を見、声

を聞くことが出来た。

 そんな世界を統べるのはこの世界で唯一の王。唯一存在する国の王である。

 彼の王の下人々は表面上は幸せに暮らしていた。身分の上下や貧富の差がないとは言わない。歴史

を振り返れば、それが原因で争いは幾度となく繰り返されている。しかし、それは歳月が流れるに従

って少しずつ改善の兆しが見え始めている。歴代の王が人々や精霊たちの声に耳を傾けてきたから。

そして現在の王は国を最も繁栄させた賢王と名高かった。そう、名高かったのだ。

 いかに優秀な王とて一人の人。死というものは等しく生きとし生けるもの全てに訪れる。例外はな

いのだ。いや、あってはならない。それは世界の秩序を乱すことだから。

 王が病に臥したのはリョーマの世界の時間から計算するとおよそ12年前。

 突如倒れた王に、周りの臣下たちは慌てふためいた。それまで何の兆候もなく、元気に穏やかに后

(正室)や側室、子どもたちと過ごしていたというのに。国中の名医と呼ばれる者たちを王宮に集め、

王の診療をするも、一向に良くなることはなく、日に日に容態は悪くなっていくばかり。そうなると

どうしても浮上するのは後継者問題だ。しかし、王は以前から既に王太子を決めていた。国中のほぼ

全員がその王太子、跡部や千石たちが親友と呼ぶ王子のことを認めていた。彼もまた賢王という王の

血を確実に受け継いでいた優秀な王子であり、后が生んだ待望の男児であったから。

 だが、どうしてもそんな優秀な人物を否定したい輩というものは存在し、王の重臣の一人である者

も自身の私腹を肥やすため機会を窺っていた。そして、密かに王太子に暗殺者たちを差し向けていた

のだが、王太子やその親友たちの機転及び実力から全て失敗に終わっていた。それが更なる悪い事態

を引き起こす。業を煮やした重臣は王太子たちの弱みを握るために王太子の実妹を狙った。王の3人

いる姫の末姫に辺り、他の兄弟姉妹から年が少し離れていたため、特に可愛がられていた。王太子の

実妹ということで后を母とする姫は「リョーマ」と名付けられ、血の繋がりのある者たち以外では王

と后が特に信頼する者たち数人にしか会わせることがなかったというほど大切に大切に育てられてい

た。

 重臣は古くから王の一族に仕えており、格式はあるのだが王からの信頼はその権力に固執する性質

からかあまり高くはなかった。それが王太子たちにとっては功を奏した。后と王太子は、悪意につい

ては元々聡く、首謀者が誰なのか王太子が命を狙われた段階で悟っていた。生まれたばかりの赤ん坊

であろうと自分の欲のためには躊躇いもなく命を奪うだろうと確信した二人はリョーマを后のいた世

界に逃がすことを考える。そしてもしもの保険としてリョーマの性別をこの生まれた世界以外では反

対の性、つまり男に変化する術を二人がかりでかけ、更に后はリョーマの代わりとなる赤ん坊を術で

創った。そうして下準備を整えると再び二人で次元の穴を開き、その中にリョーマを落としたのだ。

無事にあの表面上は平和で、后が一度は捨てた世界に辿り着くようにと万感の祈りを込めて。

 その後、数日は敵の目から逃れていたのだが后は敵に捕まり重臣の監視下に置かれることとなり、

王太子は親友たちに助けられ強力な結界のある神殿に身を隠す。最初は后とリョーマを捕らえたこと

で王太子も大人しくなったと后たちの思惑通りに考えていた重臣だったが、一年ほど経ち、漸く赤ん

坊がニセモノだと気付く。

 后に問い詰めるも口を割るはずもなく、どこかに身を潜めている王太子の動向も気になり、重臣は

国中に刺客を放ち、リョーマと王太子の行方を探すが足取りは全く掴めず、后と王太子の術でどこか

の世界に飛ばしたのだという結論に至ると刺客を他の世界に向けるのだった。







 それから数年後、后がついに力尽き、王の命が消えるのも後わずかとなった時、王太子たちは動く

ことを決意した。

 先ずはリョーマを無事に見つけ、事情を説明し、この国に連れ帰ること。そうして王太子は迎えと

して跡部と千石をリョーマの世界に飛ばし、跡部と千石はその大役を半分は成し遂げたのだった。

 最後の一つは跡部と千石、忍足たちで決められることではない。

 無理矢理では意味がないのだ。

 そう、リョーマ自身が自らの意志で帰ることを選ばなければ元の世界に行ったとして混乱するだけ。

最悪の場合は足手まといでしかない。だからこそ跡部と千石は急ぐことなく慎重に進めていたのだっ

た。時間が限られていることも、その刻限が迫ってきていることも百も承知。その上、丸井たちが三

人揃って大事な親友の傍を離れるということはそれほど王子の状態が思わしくないということ。更に

先日のことでリョーマに危険が迫っていることも明白。敵は遂にリョーマを見つけたのだから。そし

て国と王子を助けるためにはどうしてもリョーマの力が必要なのだ。リョーマは紛れもなく王と后の

血と力を受け継いでいる。その力が今の状態の王子にはどうしても必要なのだった。
















      ◆◆コメント◆◆
       時間があいてしまいましたが
       説明の続きです。はい(死)
       なんていうか水瀬的にいっぱいいっぱいです。
       書いている水瀬自身が訳分からなくなってしまった始末です。
       ラストは決まっているのに、そこまでの話をきちんと
       考えていなかった結果です。
       正しく自業自得……
              

             2006.04.22  如月 水瀬