君という光 第三章 3


  





「前もさ……」

「「?」」

 突然小さな呟きは二人にもちゃんと聞こえていた。

「今ぐらいの時間だったよね。人通りもなくてさ……。まさかだよね?」

「くだらねぇこと考えてんじゃねーよ」

「そうだよ〜。いくら次元の穴が勝手気ままな性質だと言ったって、これで現れたら狙われてるのか

って勘違いしちゃうよ〜」

「だよね。変なこと言って……って最悪」

 中途半端に途切れた言葉と最後の言葉、リョーマのうんざりした表情で先ほどの話が現実になった

のだと、理解した。が、理解はしても認めたくはないのが正直な気持ちである。だから叫んだ。二人

同時に全く同じ言葉を。

「「走れっ!!」」

「! っス」

 敵前逃亡など本来なら言語同断だが、昔の人も言っているではないか時には逃げることも勝つため

の大事な策だと。それに相手は人間ではない。生きているものですらないのだ。卑怯や臆病者と罵ら

れるいわれはほんの少しもないだろう。恐らく……。

 跡部と千石の考えていることを勘違いすることなく、きちんと理解したリョーマは二人に遅れるこ

となく走り出した。

 しかし……。

「……ねぇ」

「あぁ?」

「ん?」

「追い掛けて来てる気がするのは気のせい?」

「…………気のせいだ」

 苦しい言葉だった。しかし、それは三人の願いでもあったのだが、やはり現実逃避はいけない。三

人の後ろにはぴたりと次元の穴が付いて来ている。





「いつまで走ればいいのさ……」

「知るか!! アイツに聞けっ!!」

「聞けるものなら聞いてるよ。逃げろって言ったの景吾たちじゃん!!」

「あはは。あの穴はよっぽどリョーマ君が好きみたいだね〜♪」

「笑いごとじゃない! てか、穴に好かれても嬉しくないし……」

 リョーマの言葉はもっともだ。寧ろ迷惑でしかない。

 突然予告もなく現れては、知らない世界に捨てるのだから堪ったものではない。

 何とかならないのかと、二人に目で合図を送った。



(一か八かやるか?)

(そうだね。このままじゃリョーマ君の体力が持たないだろうし……)

 再びテレパシーで会話をする二人。

 何をしようと言うのか。



「いくぞ!!」

 跡部の掛け声で二人は同時に足を止め、次元の穴と対峙した。

 ……したはずだった。

「アレ〜?」

 先ほどまでは確かに後ろに気配があった。けれど、今二人の目の前にはいつもの日常の景観が見れ

るだけ。

「どこに消え……」

「う、うわっ!!」

「「リョーマ(君)!?」」

 リョーマの驚いた声を聞き、反射的に振り返ると、探していた目的のモノは一番あって欲しくない

ところ、つまりリョーマの背後にあった。

「いつの間に……」

「ボケッとしてんじゃねぇリョーマ! 早くこっちにこいっ!」

「む、無理……身体が」

「ちっ」

「舌打ちなんかしてないで早く!」

「んなこと分かってんだよ!」

「凄い力だね〜」

「「感心すんな(してんじゃねぇ)!!」」

 リョーマの傍に近付いただけでリョーマにまとわりついていた力は二人にも食指を伸ばした。一気

に身体の自由が奪われ、穴に引き入れようとする力にだけ従順する。



 口を大きく開けた穴はもう目の前だった―――
















      ◆◆コメント◆◆
       またもやニ話目と比べて長さが……(死)
       取りあえず気にしないで下さい。はい。

       次元の穴って追跡機能がついていたんですねぇ。
       管理人もびっくりです(笑)
       なんか話の展開的に当初予定のなかった機能を付加してみました。
       三人とも驚いていたのでまぁ良いでしょう♪(←何が?)
       
       さてさて、こうして三人は再びどこかに飛ばされてしまうのでしょうか?            
       それとも……
       

             2006.02.04  如月 水瀬