「前もさ……」
「「?」」
突然小さな呟きは二人にもちゃんと聞こえていた。
「今ぐらいの時間だったよね。人通りもなくてさ……。まさかだよね?」
「くだらねぇこと考えてんじゃねーよ」
「そうだよ〜。いくら次元の穴が勝手気ままな性質だと言ったって、これで現れたら狙われてるのか
って勘違いしちゃうよ〜」
「だよね。変なこと言って……って最悪」
中途半端に途切れた言葉と最後の言葉、リョーマのうんざりした表情で先ほどの話が現実になった
のだと、理解した。が、理解はしても認めたくはないのが正直な気持ちである。だから叫んだ。二人
同時に全く同じ言葉を。
「「走れっ!!」」
「! っス」
敵前逃亡など本来なら言語同断だが、昔の人も言っているではないか時には逃げることも勝つため
の大事な策だと。それに相手は人間ではない。生きているものですらないのだ。卑怯や臆病者と罵ら
れるいわれはほんの少しもないだろう。恐らく……。
跡部と千石の考えていることを勘違いすることなく、きちんと理解したリョーマは二人に遅れるこ
となく走り出した。
しかし……。
「……ねぇ」
「あぁ?」
「ん?」
「追い掛けて来てる気がするのは気のせい?」
「…………気のせいだ」
苦しい言葉だった。しかし、それは三人の願いでもあったのだが、やはり現実逃避はいけない。三
人の後ろにはぴたりと次元の穴が付いて来ている。
「いつまで走ればいいのさ……」
「知るか!! アイツに聞けっ!!」
「聞けるものなら聞いてるよ。逃げろって言ったの景吾たちじゃん!!」
「あはは。あの穴はよっぽどリョーマ君が好きみたいだね〜♪」
「笑いごとじゃない! てか、穴に好かれても嬉しくないし……」
リョーマの言葉はもっともだ。寧ろ迷惑でしかない。
突然予告もなく現れては、知らない世界に捨てるのだから堪ったものではない。
何とかならないのかと、二人に目で合図を送った。
(一か八かやるか?)
(そうだね。このままじゃリョーマ君の体力が持たないだろうし……)
再びテレパシーで会話をする二人。
何をしようと言うのか。
「いくぞ!!」
跡部の掛け声で二人は同時に足を止め、次元の穴と対峙した。
……したはずだった。
「アレ〜?」
先ほどまでは確かに後ろに気配があった。けれど、今二人の目の前にはいつもの日常の景観が見れ
るだけ。
「どこに消え……」
「う、うわっ!!」
「「リョーマ(君)!?」」
リョーマの驚いた声を聞き、反射的に振り返ると、探していた目的のモノは一番あって欲しくない
ところ、つまりリョーマの背後にあった。
「いつの間に……」
「ボケッとしてんじゃねぇリョーマ! 早くこっちにこいっ!」
「む、無理……身体が」
「ちっ」
「舌打ちなんかしてないで早く!」
「んなこと分かってんだよ!」
「凄い力だね〜」
「「感心すんな(してんじゃねぇ)!!」」
リョーマの傍に近付いただけでリョーマにまとわりついていた力は二人にも食指を伸ばした。一気
に身体の自由が奪われ、穴に引き入れようとする力にだけ従順する。
口を大きく開けた穴はもう目の前だった―――
◆◆コメント◆◆
またもやニ話目と比べて長さが……(死)
取りあえず気にしないで下さい。はい。
次元の穴って追跡機能がついていたんですねぇ。
管理人もびっくりです(笑)
なんか話の展開的に当初予定のなかった機能を付加してみました。
三人とも驚いていたのでまぁ良いでしょう♪(←何が?)
さてさて、こうして三人は再びどこかに飛ばされてしまうのでしょうか?
それとも……
2006.02.04 如月 水瀬