君という光 第三章 2


  





「お先っス」

「おぅ! って越前お前またかよ……」

「スイマセン。でも、仕方ないじゃないっスか。桃先輩の約束が遅いんスから」

「はいはい。俺が悪ーございます」

「拗ねても気持ち悪いだけっスよ」

「うっ……」

「にゃはは〜。おちび容赦ね〜」

「本当のこと言っただけっス」

「うん、そうだよね。越前君が正しいよ。だから、明日は僕と帰らない?」

 何がだからなのか全く理解出来ないのだが、その言葉を受け取る当のリョーマもそれを気にするこ

となくサラッと了承の答えを返す。

「別にいいっスよ」

「本当。じゃあ、約束ねvv」

「っス。じゃあ、俺急ぐんで。お疲れ様っス」

 ペコリと頭を軽く下げるとリョーマはレギュラーの先輩たちを置き去りにして部室をあとにした。





「ズルイぞ! 不二ぃ〜」

「何言ってるの英二。当然早い者勝ちでしょvv」

「俺の方が先に約束してたっすよ!」

「「桃は黙っててvv(ろ!!)」」

「スンマセン……」

 不二の何があろうと絶対に逆らってはいけない笑みと、これまた怒らせると後が厄介な菊丸の睨み

に敵うはずがないしがない後輩は心で泣きながら引き下がった。

「……取り込み中悪いんだが」

「「何(にゃに)?」」

「越前の相手は分かったのか?」

「分かってたら、とっくにどんな手段を使おうが何とかしてるよ。全く。この僕に情報を掴ませない

なんてさ……」

「ほぇ〜。不二でも分かんにゃいなんて、おちびの相手って……」

「やはりか」

「ということは乾も?」

「あぁ、全く入ってこない。連ニにも情報が入ったら回してくれるように頼んだんだがな……」

「えぇ〜!? 乾に柳まで手を回してんのに分かんにゃいなんて……。手を出すなってこと?」

「それで引き下がれるわけないでしょ。余計に何としてでも、つきとめなきゃねvv」

「そうだな」

 どうしてもリョーマの相手をつきとめたい二人は同盟を組んだ。しかも、青学で一、二を争う厄介

な人物たちが……。それを目の前で見ていることしか出来なかった菊丸は

「頑張れおちび!! 俺は見守ってるにゃ!!」

 見守ることを固く決意した。しかし、菊丸が見守ることに何か意味があるのだろうか……。甚だ疑

問である。











 今日も今日とてリョーマは急いでいた。いつもの待ち合わせ場所であるファーストフード店に。

「何とか間に合うかな?」

 時計を見ながら呟くと店はもう目の前だ。

「景吾! キヨ!」

 いつものように先に来て、いつもと同じ席をちゃっかり確保している二人。それぞれ学校から店ま

での距離で一番近いのはリョーマなはずなのに何故か絶対に先に来ている。ちゃんと部活してんの?

とリョーマが疑問に思うのも無理はない。

「ギリギリだぜ?」

「だって仕方ないじゃん……」

「あーん?」

「何かあったの?」

「いつものことだけどさ。先輩たちが帰り際に声かけてくるからどーしても遅くなる……」

 だから自分のせいではないと語るリョーマに二人の機嫌は悪くなる。

「アイツ等……」

「い〜度胸だよね〜。俺のリョーマ君にちょっかいかけるなんて……」

「いつ、てめぇのになった? あぁ?」

「リョーマ君が生まれた時から〜vv」

「てめぇも随分といい度胸じゃねぇか。一回……」

「ウルサイ。ウザイ。ケンカすんなら俺帰る」

「えぇ〜!? ダメだよ〜。今日は恒例のお茶会なんだから!!」

「……悪い」

 リョーマには俺様もラッキーも頭が上がらない。正しく鶴の一声ならぬ、リョーマの一声である。

「何でそんなに二人でばっかケンカすんの?」

「「……」」

 つまりリョーマの言いたいことは、ケンカをするなら自分も混ぜろということだった。

 ……根本的に間違っている。

 跡部はもう勝手にしろとばかりに既に温くなっているアイスコーヒーに手を伸ばし、千石は汚名返

上とばかりにリョーマを構い倒し出した。それから他愛もない話をして、新しい飲み物を用意すると、

リョーマは今まで聞くに聞けなかった本題に入る。





「……ねぇ」

「あん?」

「どうしたの? 急に真剣な表情になって」

「いいかげんホントのこと教えて。景吾とキヨが知ってること全部。俺あの時、何も分からないし何

もできなかった。そんなのはもう嫌だから!! 二人が戦ってるのに俺だけ護られてるだけなんて嫌

っス!!」

「俺たちはお前に怪我して欲しくねぇんだよ。お前が怪我するくらいなら俺たちが盾になった方がマ

シなんだよ」

「そんなの俺だって同じだよ! 景吾とキヨが傷付くなら俺が傷付く方がいい!!」

「リョーマ君」

 いつにない千石の凛とした声がリョーマの胸に響く。それはあの時聞いた声と同じだった。

「あの時のこと覚えてるよね?」

「…………忘れられるわけないし」

「うん、そうだよね。じゃあオレたちがどーゆー戦い方してたかも覚えてるよね?」

「……術って景吾が」

 真摯的な千石の態度にリョーマの返答もいつもの調子ではなく、自然と一つ一つ言葉を選んだもの

になる。

「そう、術。オレと跡部君が使う力。本当はリョーマ君も使えるんだけど……」

「えっ!?」

「千石!!」

 リョーマのと跡部の驚きの声が重なる。その声に表される感情は別のものだったが……。



(コレぐらいは大丈夫だよ。)

(だがな、リョーマのことだ自分にも同じような力があることを知ったら……)

(間違いなく修得しようとするだろうねぇ)

(分かってんだったら何で話しやがった!!)

(リョーマ君にはまだ封印の術がかかってる。アレは簡単には解けないよ♪)

(もしもってことは?)

(遅かれ早かれいつかは全てを話さなければいけない。それは絶対なんだから……)

(…………分かった)

 二人は心の声で会話していた。リョーマに気付かれないように。

 そう、この世界ではテレパシーと呼ばれる力であり、以前跡部と千石が連絡を取る手段として使用

したものだった。まだリョーマには知られていない力。



「……ヨ! キヨってば!!」

「え、あぁ、ごめんねぇ」

「俺の話聞いてる?」

「アハハ。もっかいお願いvv」

 誤魔化しの笑みを浮かべるも、誤魔化しきれていない。

 じとーっとリョーマは千石を不信そうな瞳で見つめている。

「……(汗)」

「……」

「……(大汗)」

「…………俺にも二人みたいな力使えるのはホント? って聞いてんの!」

「うん、ホントだよ〜♪ キヨ、リョーマ君には嘘つかないからねvv」

「ということは俺以外だと嘘も混じってるってことか……気をつけなきゃ!」

「リョ、リョーマ君??」

 含みのあるリョーマの言に千石は慌てるがリョーマはそれを無視して続きを促す。

「で? どーやったら使えるの?」

「さあvv」

「……ケンカ売ってんの?」

「いや、ホント。オレもどうやって使えるようになったかなんて覚えてないしねぇ。跡部君は覚えて

る?」

 千石が尋ね、リョーマは跡部ならと期待した瞳を向けるが、跡部は静かに首を左右に振るだけ。つ

まり跡部も覚えていないということだ。

「っ。じゃあ、どーすればいいんだよ!!」

「ん〜。オレたちが言えることはね。精神を鍛えること! 術は術者の精神に左右されるんだよ。安

定した術を使うには強い精神が何よりも必須条件。精神が不安定な状態で使えばコントロール出来な

いばかりか、最悪の場合自分自身に返ってくる可能性もあるからね」

「分かった。でも、それだけじゃ……」

「素質はあるんだ。契機(きっかけ)なんてほんの些細なことだ、その内嫌でも使えるようになるだ

ろ。だからコイツの言うよーに今は精神を鍛えとけ。それで十分だ」

「……」

 言い募ろうとしたリョーマを遮るのは跡部。その言葉は誰が聞いても正論のように思われる。実際

そうなのだが、リョーマには跡部の言葉は力を使えない者は足手まといでしかないから後ろに引っ込

んでろとしか聞こえなかったのだ。そんな二人の心情が手に取るように分かる千石は苦笑を漏らす。

そして、ふと視線を外に移せばいつの間にこんなに時間が過ぎたのかという感じで、空は薄暗くなっ

ていた。次に周囲に移せばやはりというかあれだけところ狭しと満席だったのに、今は空席の方が占

める割合が多い。お昼をファーストフードで済ますというのは良く見かける。が、夜までもとなると

金銭的な面を省けば大半の人が違う店に行くのは仕方なかった。つまり、もうそういう時刻なのだ。

時間を忘れスッカリ話し込んでしまったようだ。いつもはある程度の時間できっちり引き上げている

というのに……。

「リョーマ君、跡部君」

「何?」

「あ〜ん? 何だ?」

 まだ熱い睨み合いは続いているようで、二人の言葉は冷たいもの。まぁ、跡部に至ってはリョーマ

と限られた者以外には普段の態度と何ら変わりはないのだが。

「そろそろ帰ろっか〜♪」

 ハッとして千石の指し示す外を見ると、文句を言わずに千石の言葉に従うのだった。
















      ◆◆コメント◆◆
       一話目と比べて長さが……
       でも、やっぱり青学レギュラー陣との会話は
       管理人的に外せないので(笑)
       二章でほぼ出番がなかったキヨ。
       そのため今回はおもいっきり喋ってます♪
       頑張って喋って、サクサクっと三章を終わらせて欲しいですvv
       
       さて、疑問に思っていることを漸く切り出したリョーマですが、
       上手く二人にはぐらかされてますねぇ。
       納得のいく答えが返ってくるのはいつになるのでしょう?
       頑張れ、リョーマ!!     
       

             2006.01.28  如月 水瀬