君という光 第二章 23


  





「次はあなただよ♪ どうする?」

「どうすると聞かれましても、戦うしか選択はないでしょう?」

「ん〜? そうなんだろうけどねぇ。でもさ、俺、あなたを見たことがあるんだよねぇ。あの方の側

にいたあなたを。違う?」

「!?…………人違いですよ」

「そう? さっきの表情が真実を物語ってると思うんだけどなぁ。ねぇリョーマ君?」

「何で俺に振るわけ? まぁいいけど……。その人は最初から何か違和感があった。これでイイ?」

「ということですよ? イクス殿」

「!? 何故名前を……」

「以前に聞いたことがあるんだよね。あの人に。だから俺は知ってるんだ。あなたが悪い人ではない

ということを」

「敵に情けかけてんじゃねぇ!!」

「ん〜。でもさ、跡部君。これあの方の願いなんだけど、それでも君はこの人を殺したいの?」

「お前…………ちっ、勝手にしやがれ」

「うん、そうするね〜」

 跡部から一応任された形となったのも要因の一つなのだろう。千石の纏う雰囲気が殺伐としたもの

からどこか穏やかなものに変化している。







「……なんか今度は楽しそうなんだけど?」

 どんな理由があれ自身を殺そうとし、跡部に怪我までさせた相手に対して負ではなく正の感情を向

け始めた千石にどこか納得がいかない。しかもどうやら知り合いなうえに、リョーマにだけ分からな

い会話を繰り広げている。気分が悪い方に向かっても仕方なかった。

「あいつのことは気にするな。気にするとこっちが疲れるぞ」

「……そうする。でも、景吾も傷に響くんだから大人しくしてろ!! いちいちキヨにつっこむな!

! 全く」

「……」

 千石にぶつけられない行き場のない怒りは必然的に八つ当たりで跡部に向かった。けれど最終的に

は千石に戻るのだ。跡部がリョーマに手を上げることなど一生に一度あるかないかなのだ。今までの

様々な鬱憤と併せて怪我が治ったら報復してやると跡部は新たに心に誓うのだった。







「で、俺的には甘いと言われようとも戦いたくないのが本音なの。あの方は信頼していたからさ。そ

れにリョーマ君が分かるくらいあなたは迷いがあるみたいだしね。本当は殺せないんでしょ?」

「………………最初から殺せるとは思っていませんでしたよ」

「どうして?」

「命の恩人。その方の大事な子供を殺せるはずがないでしょう。それでも他の者に奪われるなら……

と思ったのですよ。無理でしたが。本当に良く似ておられる。彼も似ていると思っていたがそれ以上

に。人目見れば明らかです。間違いなくあの方の子供だと……」

「そうだね〜。でもリョーマ君はリョーマ君だ。どんなに似ていたとしてもね。この世でただ一人の

人だよ。それをあの人の血を引いているというだけで命を摘み取ろうなんて冗談じゃない。人の風上

にも置けないよ、全く」

「否定はしません」

「そう思うならイクス殿」

「?」

「こちらにつきませんか? アイツの側にいて欲しい。あなたになら任せられる。リョーマ君を殺せ

ないならアイツも同じだと思うからさ。どうかな?」

「……どうしてそこまで信じられるのですか? 偽りを申している可能性もあるというのに」

「その瞳は偽りじゃないと思いますからね。それにリョーマ君自身があなたに対して何かを感じてい

るからね。そしてそれはリョーマ君に害をなすものじゃない。俺たちはリョーマ君のことは信用して

いるからさ。アイツも弱いわけじゃないし、他にも腕が立ち、信頼できる奴が側にいるから多少のこ

となら大丈夫だしね。ただ俺たちは今そこにいるわけにはいかないから、人数は多い方がいいかって

いうことだよ。腕の立つ者なら尚更にね」

 男、イクスは考えた。

 千石の言うことはほぼ間違いない。自身はリョーマもそして千石が“アイツ”という人物も殺せな

いだろう。本当は最初から分かっていた。けれど命令は命令だと無理矢理納得させてここにいるのだ。

結果、部下は全員倒れ己も後がないことは明らか。潔くここで死を選ぶか、彼等の情けを受け入れる

か……。心の中では既に答えが出ている。千石の言葉を聞いた瞬間心がどうしようもなく騒いだのを

感じたからだ。

 イクスは今一度リョーマに視線を合わせる。

「……」

 なんとなく気まずい感じがして、リョーマは思わず跡部の背に隠れた。しかし、気になり恐る恐る

少しだけ顔を覗かせる。跡部は特に何を言うわけでもなくリョーマの行動を見つめているが、少し気

に食わなさそうなのは気のせいだろうか……。

 そんな二人の光景を目にしてイクスは自然と笑みを浮かべた。

 心は決まった。

 これからは心に正直に生きようと。











      ◆◆コメント◆◆
       オリキャラ登場です♪
       名前のついたオリキャラは彼で3人目ですね〜。
       他の人物はどうでもいいから名前考えるの面倒だし……
       で、名無しのままです(死)
       本当はイクスも名無しの捨て駒だったのですが、
       久方振りに登場したキヨが勝手に話を作ってくれて
       彼は目出度く“イクス”という名前を拝命したのでしたvv
       凄いなぁキャラが勝手に話を進めてくれるよ(^_^;)
       管理人が頼りない証拠ですね……       

       今回はなんだかほぼ会話文。
       付け足そうとも思ったのですが、そのままいきます。
       さて、記憶が確かなら漸く次で二章はラストです!!
       長かった。
       ではでは、次のラスト(のはず)も宜しくです。
       

             2005.11.05  如月 水瀬