君という光 第二章 24


  





「う〜ん。なかなか止まらないねぇ」

「別にどーってことねぇんだよ、こんなかすり傷」

「えいっvv」

「っ!! ……てめぇ、何しやがる!!」

 どうしても強がる跡部に千石は患部を抓った。さすがに力は加減していたが……。

「どうってことないんでしょvv」

 語尾にハートマークがついているのだがどう見てもその笑顔は偽者だ。

「……」

「景吾。素直に謝っておいた方がいい気がするんだけど……」

 跡部も、そしてリョーマでさえも今の千石には怯えている。彼等の本能が叫んでいる。今の千石に

は決して逆らうな!!と……。跡部はリョーマの忠告を素直に受け取った。

「…………わ、悪かった」

「うん。分かってくれればいいんだよ〜。ちょっと痛いかもしれないけど、応急処置するね。元の世

界に還ったらリョーマ君のお母さんの所に行こう。それが一番確実だから」

「あぁ。仕方ねぇよな」

 会話しながらも、千石はテキパキと手当てを施していく。患部には上着の裾を破り、術で変化させ

た清潔なガーゼを当て、その上から大きめの布で少しきつめにしっかりそれを固定する。圧迫された

ため多少はましになったがやはり止血は完全ではなかった。

「これでもまだ止まらないねぇ」

 さすがに少し心配げな表情で他に何か出来ることはないか思考するが、薬も何もない状況ではこれ

以上は何も出来ない。





「景吾?」

「あん?」

 一応の手当てをされると当然のように立ち上がった跡部にリョーマは非難を含んだ声音で問いかけ

る。しかし、跡部はやはり気にも留めていないようだ。

「怪我してるときぐらい大人しくできないわけ?」

「お前に言われたくねーな。地区大会の時、目を怪我しても試合を続けただろーが」

「それとこれじゃあ怪我の度合いが全然違う!! しかもこの怪我は俺を庇って……っ」

 今になってリョーマの瞳から綺麗な雫が溢れてきた。敵がいなくなって安心したのと、死を覚悟し

た時の恐怖が併合して訪れたようだ。

「あぁ、こんなことで泣くんじゃねーよ。仕方ねぇな。ったく」

「っ……だって景吾死んじゃうかと……」

「だから俺様は死なねぇって言ってんだろ。お前を残して」

「そうそう。跡部君は俺様だから殺しても死なないよ♪ だからリョーマ君泣かなくていいんだよ。

綺麗な涙が勿体ないからね」

 何気に酷いことを言っているのはまだ怒りが治まっていない証拠だろうか?

 米神をピクリと反応させて、睨みつけるもいつものように罵声を返すことはなかった。





「で、どこにあるんだ?」

 リョーマの涙が止まるまで待って、跡部は千石に帰ることを促す。

「この先の森の中にあるよ。ちょっと手伝って貰って移動させちゃった♪」

「移動させたってお前……」

「? なんのこと?」

 この発言に跡部は驚き、リョーマは話についていけない。

「どうやらこの世界は全く無関係ってわけじゃないみたいなんだよね。あの方のこともあの人のこと

も知ってるみたいなんだ。といっても手伝って貰った相手は人間じゃないけどね」

「……少なくともそいつ等は敵じゃねぇってことか」

「そういうことだね」

「だから何の話してるんだよ!! 俺を無視すんな!!」

 二人だけに通じる話題。

 二人の絆の強さを見せ付けられリョーマは拗ねる。二人に言わせれば「別に絆なんかなくてもいい

!!」と声を大にして叫ぶだろうが、そんなことリョーマには分からない。ただ分かるのは二人がと

ても仲が良いということ。罵詈雑言を吐きながらもそれは上辺だけのことで、本心は決してそんなこ

とを思っていないからこそ遠慮もなくそんな言い合いができるのだとリョーマには感じられる。

「ごめん、ごめん」

「あぁ、悪い」

 少しも悪いと思ってなさそうなのは気のせいなのか……。しかし、ここで怒って時間を無駄に浪費

するわけにはいかない。跡部は平気そうにしているが、顔色は少しずつだが確実に悪くなっているの

だ。

「……で、何の話してたのさ?」

「ここに連れて来られた直接の原因は跡部君から聞いたでしょ?」

「っス。確か次元の穴って言うものが突然開いたからって」

「そう。その穴がこの先の森にあるわけ」

「気まぐれだって言ってなかった?」

 説明された時の言葉を思い出して首を傾げる。

「あぁ。一応元の世界に戻れるために穴は確実に飛ばされた世界にも存在する。だがそれが都合よく

すぐ近くに、またこんなすぐに現れるなんて奇跡的な確率だ」

「だから、俺があるものに手伝って貰って、この世界の果てにあった次元の穴を移動させたんだよ。

嫌な予感もしてたからね。ほんと疲れたけど移動させといて良かったよ」

「……やろうと思ってできることなわけ?」

「……普通はやらねぇな」

「でも、跡部君もリョーマ君のためならやるでしょ?」

「否定はしねぇ」

「……」

 なんで自分のためにそこまでできるのだろうと嬉しい反面、呆れて絶句してしまった。

「とにかく、急ごうか? 早くしないといくら俺の術と彼等の力を使って閉じるのを遅らせていると

いっても、完全に閉じるのを止めることはできないからね。閉じてしまえば次はいつ現れるか誰にも

分からないからね」

「「それを早く言え!!」」

 戻れるか戻れないかの瀬戸際なのに、飄々という体を崩さない千石に二人の言葉が重なる。そして、

体型から千石が跡部を支えながら急いで森へ向かった。











(あれ? この空気…………どこかで??)



「「どうかしたの(か)?」」

「ううん。何でもない」

「急ぐぞ」

「っス」

 森に入った直後、キョロキョロと辺りを見回すリョーマに跡部と千石は何かあったのかと声をかけ

た。しかし、リョーマにも良く分からないため曖昧な否定をするしかない。







 全ての森が同じような造りになっているのかは分からないが、千石の先導で辿り着いた場所はリョ

ーマが最初にいた森に良く似ていた。鬱蒼とした木々が開けた場所に小さな泉があった。それは最初

の森よりかは一回りほど小さなものだが沸き出でる水はやはり清らかで澱みなど一切ないものであっ

た。



(そっか……)



 ようやくリョーマは思い出した。

「あれか……」

「うん。ほぼギリギリだねぇ♪」

「だから、何でてめぇは楽しそうなんだ!!」

「焦ってもどうしようもないじゃない。事態を楽しむことも大切だよ〜」

 これ以上千石と話せば余計に気分が悪くなると今更ながらに感じ、千石の言葉で余計なものは全て

無視と決めた。といっても穴の大きさを見る限り本当に余計なことをする時間はもうないのだが……。

「このまま飛び込んで大丈夫なんだろうーな?」

「たぶんね」

「……。リョーマ」

「……」

「リョーマ?」

「えっ!? あ、ごめん。何? 景吾」

「何ってお前なぁ。ったく、今から穴に飛び込むぞ。時間がない」

 その言葉でやっとリョーマは意識を元の世界に還るための唯一の手段である次元の穴に向けた。も

う後数分もすれば完璧に閉じられ、この場から消滅するだろう。穴の中はただ闇が渦巻いているだけ

だ。これで本当に還れるのだろうかと不安がないわけではない。しかし何も分からない自分では判断

材料はない。頼ってばかりでは本当は駄目なことは良く知っているが、今ばかりはどうしようもない

のだ。二人の言葉を信じるしかないのだ。元々信頼していないわけではないのだし……。

 今この瞬間だけは不安を消し去るためにリョーマは一度瞳を閉じた。そしてゆっくりと瞳を開ける

とその瞳は一際綺麗な色を宿す。

 誰もが釘付けになるような綺麗な綺麗な青灰色の瞳。

 慣れていた跡部と千石でさえも思わず引き込まれてしまった。





「還ろう。俺たちの世界に」

「あぁ」

「そうだね」

 頷き合うと三人は次元の穴に飛び込んでいった。











     第二章  −完−





      ◆◆コメント◆◆
       祝、二章完結\(^o^)/
       凄いです。一章の倍以上ってどうなんでしょう?
       ケータイから、パソに直接入力に切り替えたことも要因でしょうが、
       一番の要因はやはりキャラたちの暴走でしょうね(^_^;)
       最後のあたりは書きたかったシーンだったので
       打ち込みは早かったのですが、本当に三人とも暴走し過ぎ!!
       
       無事終わったから暴露しますが、
       リョーマの脱獄はなかったです。景吾が牢屋まで迎えに行く予定でした。
       次、跡部。最初はキスシーンなんてものはなかった。なのにリョーマが
       脱獄なんて馬鹿な真似するから、景吾もキレました……。
       最後にキヨ。前回のコメントにも書きましたが、イクスというキャラを
       管理人に断りもなく(笑)作ってくれました。最初と最後しか登場させなかった
       腹いせでしょうか??

       というようなことがありましたが、無事完結出来てよかったです♪
       では次は、三章で会いましょうvv
       いつからのUPになるかはまだ未定ですが、待っていて下さると嬉しいです。       
       

             2005.11.12  如月 水瀬