跡部は四人の術と体術が入れ混じった攻撃を次々とかわしていく。当然リョーマを庇いながら。口
も開かない三人に関しては必死で跡部を、本当はリョーマが狙いなのだが、殺そうと精一杯の攻撃を
繰り返している。しかし、隊長格の男はどこか余裕を持ち、攻撃しながらも跡部の動作を観察してい
る。四対一の戦闘はいくら跡部が強いといってもリョーマを庇いながらでは隙が出来てしまっても仕
方なかった。そして、隊長格の男はソレを見逃さない。
隙を突かれた攻撃で跡部の体勢が少しだけ崩れる。が、その少しがリョーマと跡部の距離を開けて
しまった。
「あっ……」
「ちっ!」
同時に叫ぶがすぐには体勢は元に戻らない。間を裂くように男たちがここぞとばかりに一斉に動く。
跡部に対して三人、リョーマには隊長格の男が。
「っ……」
リョーマは男と距離を取るために後退する。跡部と離れては駄目だと、危険だと頭の中で赤信号が
点滅するが、身体は目の前の男の近くにいる方が危険だと判断しているのか無意識に少しずつ、だが、
確実に後退している。跡部は跡部でリョーマの方が自身より気がかりなため焦りで術の威力が不安定
だ。四対一の時でも焦りを見せていなかったが、今は明確にソレが出てしまっている。
「……苦しまないように一瞬で送ってあげます」
「どうしてっスか? 何で俺なんか」
「我等の主にとってあなたは何よりも邪魔なのです。存在していることが主にとっては脅威でしかな
い」
「そんなに……」
存在すらもしてはいけないらしい自分。
一体自分にどんな意味があるのだろうか?
この十数年普通に生きてきた。特に変わった力なんてものはなかったはずだ。何か力を持っている
のなら遅刻なんかで毎日毎日罰走なんてしなくても良かっただろう。妙に現実的なことを考えてしま
うリョーマだったが、彼にとってはテニスをする時間が減るということは重大なことなのだ。
いろんな意味でリョーマはショックを受けていた。そしてそれは元々守りの不十分なリョーマを更
に無防備にする行為。男は何かを唱え、手に薄いグリーンの剣を作り出す。
「あっ……」
気付いた時にはもう目の前に剣の切っ先は迫っていた。
「どうか…………」
「っ……!!」
男は何かを呟いている。しかし、リョーマはそんなことに構っていられない。両の目を反射的にギ
ュッと閉じた。
しかしいつまで経っても衝撃は襲ってこない。
それとももう死んでしまったから何の痛みもないのだろうか?
けれど何故か温もりを感じる。
それはいつも側にあったもの。
よく知っているはずのもの。
とても安心できるもの。
(……何だっけ?)
その瞬間ぬるっとした何かが指に触れたのが分かり、リョーマの意識は現実世界に戻ってくる。誰
かの腕の中だった。いや、誰かではない。今この場で自分を抱きしめるなんてことをするのはたった
一人しかいない。
「け…ご……?」
「怪我はないな?」
怪我をしているのは跡部自身。しかしそんなことは気にも留めず、先にリョーマの怪我の有無を確
認する。その顔にいつもの余裕はもうない。
「怪我してんのは景吾の方だろ!! 何で……何で俺なんかっ!!」
「お前が無事ならそれでいい…っく」
テニスの試合をしている時でさえめったに汗をかいたりしない跡部の額に微かな汗が光る。それだ
けで負った怪我の状態が窺えた。
「景吾どいて!! いいから。もういいから!!」
「うるせー。お前は黙ってろ。お前は絶対に俺が守ると決めてんだ。あの時から、あいつと約束した
んだよ。あいつの代わりに、あいつよりも確実に護るってな!!」
苦痛で顔を歪めながらも、決してリョーマを離そうとしない。言葉はリョーマに向けられているよ
うで、跡部自身にも向けられていた。誓いを違えるな。破ってはならないと……。
多少動きの悪くなった身体を男の方に向け対峙する。まだ身体が動かないわけではないのだ。リョ
ーマがいる分こちらが僅かに不利だが、術の力は俺の方が確実に勝っている。奢りではない。それは
アイツの血を引いているのとあいつの加護を受けているから。上手く動けば勝機はあるはずだ。流れ
る赤い血液が衣服を染めていっても跡部は体勢を崩さない。男と睨み合い間合いを計っている。再び
四対一の戦いが始まるが、長くは続かなかった。四人一斉の攻撃に全てをかわしきれず、いくらかの
攻撃を受けて跡部は遂に方膝をついた。
「くっ……」
「景吾!!」
リョーマは跡部の側に寄る。跡部はそのリョーマを自身の腕の中に護るために閉じ込める。
「どうやらこれでお終いのようですね。我等四人相手にさすがという言葉しか出てきませんよ。しか
し、それももう終わりです。さようなら景吾様、リョーマ様」
リョーマと跡部の前に悠然と佇む男たちは同時に術を唱えだした。そしてそれぞれの手に赤、青、
緑、橙という光の塊を作り出し、テニスボールほどの大きさに集約されると二人に向けてそれを同時
に放った。
「景吾……」
「リョーマ……」
お互いの名を呟くと抱きしめる腕の力を強くし、覚悟を決めたように静かに目を閉じたのだった。
◆◆コメント◆◆
管理人はこの回を書きたいがために
頑張っていたような気がします(笑)
そのくせ戦いの場面とかは思いっきり適当に書いて
ますので、表現がおかしい、同じようなことを
繰り返し書いているとかありますが……(死)
サラッと流して下さい。サラッと。
さてさて覚悟を決めた二人ですが、
今後の展開はおそらく簡単に読めるでしょう♪
ではでは、次もよろしくお願い致します。
2005.10.24 如月 水瀬