「何か変な感じ……」
「少しの間だ」
「まぁ、いいけどね」
そう言いながらもどこか違和感があるのか、珍しいのか何度も何度も自身の格好、もとい衣服をま
じまじと見直す。その行為は目立っていた。何せめったに見ることのない美形の部類に入る二人なう
え、一人が何か後ろめたいことがあるかのように自身の姿を執拗に確認しているのだから……。
何故そんなことをしているのかと言うと、大神殿を首尾よく抜け出した後、必然的に町中を抜けな
ければならないのだが、リョーマの格好はいまだ学生服のまま。そんな格好で町中を走れば、お告げ
の人物だと無言で告げているようなもの。なので、跡部が術で自身の衣服を変化させたようにリョー
マの制服もこの世界のものに変えたのだった。
「おら、念願の出口だぞ」
「これでやっと帰れるんだ……」
「そう上手く行くとは思えねぇけどな」
「どーゆーこと?」
「アイツ等がこんな温い手で終わるとは思えねぇからな」
「……」
「帰るまで気を抜くんじゃねーぞ。無事帰ったら全部教えてやる。千石も同じ気持ちだろうよ」
「っス」
「お気をつけて。よい旅を」
門を潜る瞬間、門を警備する男からの言葉。
なにか含みがあるように感じるのは気のせいだろうか……。
町を出ると辺りは見渡す限りの緑の大海原と山、そして木々生い茂る小規模な林と呼んでも何ら差
し支えのない森がそこかしこに見える。町は比較的小高い場所に位置しているため望める景観だった。
道は舗装されているようで荒れている。それでも全くないよりかはマシなのだろう。
「ここから、どっちの方角に行くの?」
「少し待て」
目を閉じ、意識を集中させ、目標を探す。
「あっちだ」
示した先は草原が広がる大地。
「あそこにキヨがいるの?」
「あぁ。それと帰るための次元の穴もな」
「次元の穴?」
耳慣れない単語。何の説明もなかったリョーマには当然だった。
「お前がこの世界に連れて来られる時に吸い込まれた真っ黒の渦巻状の穴のことだ。あれに捕まると
次元の異なる世界へ落とされる。落とされる世界は穴の気分によって変わるから、行き先は不特定っ
ていう厄介なモノだ。例え同じ穴に捕まったとしても、数秒異なるだけで別の世界に飛ばされること
もあるらしいからな」
「よく同じ世界に来れたね」
「俺もそう思うぜ。ただあの時は、とにかくお前を追うことで必死だったからな。俺も千石も」
「……ごめん。心配かけて」
「お前のせいじゃ……」
「? 景吾」
「やっぱりか」
「え?」
「俺から絶対離れるんじゃねーぞ!」
「う、うん」
その瞬間二人を包む空気が変わった。明らかに殺気を含んだ視線が身体中に突き刺さる。
「っ……」
あまりにも強過ぎるソレにリョーマが怯える。それが分かる跡部はしっかりとリョーマの肩を抱く
が、震えは微かに残っている。
「ちっ」
大切なリョーマを怯えさす相手とその怯えを取り除くことが出来ない不甲斐ない自身に腹が立つ。
ならばその怒りは相手にぶつければいい。思う存分やっても誰も文句を言う者などいないのだから。
覚悟を決めた瞬間、針のようなものが無数に飛んで来る。跡部はリョーマを抱き抱え、何とかその
攻撃をかわす。そしてかわした先に当然次の攻撃が飛んでくる。今度はかまいたちだ。風のブーメラ
ンが長い草を切り裂きながら二人の足元を狙う。それもなんとか避けきると次は焔が二人を包み込む。
焔はじりじりと二人に近付き、逃げ場を奪っていく。
「あつ……い」
リョーマが呟くと同時に目の前まで迫ってきていた炎が一瞬にして消え失せた。
「さすが……というべきなのでしょうな」
今まで姿を見せなかった敵が姿を現す。二人を囲むように四方に佇む彼等の格好は忍のような黒装
束。但し、顔は素顔を晒していた。この場で絶対に二人を殺すという自信の表れか、先ほどの言葉か
ら察するに跡部に対して敬意を表しているのかは定かではない。もしかしたらその両方かもしれない
が……。
「は、誰に向かって言ってんだ。当然だろ」
「……相変わらずですね」
そう言いながらも視線は跡部に庇われているリョーマに向けられている。
「何?」
「お前は黙ってろっつっただろ!! 勝手に話しかけてんじゃねぇ。無視しとけ。お前が気にする奴
等じゃねー」
しかし、そんなことを言われても気にならない方がおかしいだろう。なにせ命を狙われたのだから。
しかも跡部は理解しているが、リョーマには何故自身が命を狙われるのかが全く以って分からないの
だから。その理由を答えてくれそうな者が目の前にいたのなら気になって当然だろう。全く無茶を言
う俺様主義者である。
「ねぇ、何でこんなことするんスか?」
「……命令だからですよ。忠誠を誓う主の命令は絶対です。そこに我等の感情は存在しません。けれ
ど……」
「?」
「いえ、何でもありませんよ。しかし、本当に良く似ておられる……」
「えっ?」
感情は存在しないと言いながらも一瞬だけ見えた感情の色。それをリョーマは確かに見た。更に問
いかけようとするが跡部がそれを許さない。
「余計なこと言ってんじゃねーよ!! お前等の目的は俺たちを殺すことだろ? なら、さっさとや
れよ。返り討ちにしてやるからよ!!」
「余程お命が惜しくないのですね」
既にその瞳は何の感情もない凍えるような冷たい瞳に戻っている。そう、最初に感じた強い殺気と
同じソレ。男が体勢を変えると、それに習い今まで黙って突っ立っていただけの他の三人も体勢を戦
闘時のものとする。
辺りを包む空気は再びピンと張り詰めたものになる。
◆◆コメント◆◆
ようやく神殿から脱出。
長かったです。本当に……
当初の予定では2話分くらいでサクサクっと終わらせる
はずが、何をどう間違ったのか……
というか全体的になのですがね(死)
そして、ようやく本命の敵さん登場♪
さてさて二人の運命は!?
ではでは、次もよろしくお願い致します。
2005.10.22 如月 水瀬