突然背後から引っ張られ、暖かい温もりにきつく抱きしめられたかと思うと、抱き締めていた腕の
片方が強引にリョーマの顎を捉え、顔を上向けさせると、驚き戸惑い抵抗もままならない状態のリョ
ーマの唇を強引に自身のソレで塞ぐ。そして反射的に叫ぼうとしたリョーマは、相手に付け入る隙を
与えてしまい、また相手もそれを見逃すはずもなく躊躇なくそこから舌を差し入れた。
「!? っ…」
初めてのキス。
相手はどこの誰とも分からないうえに無理矢理奪われ、あまつさえ舌まで入れられリョーマは無意
識に目じりから一滴の涙を流す。
「ん…んぅ……っ」
気持ち悪さから必死に逃れようとするが、相手の方は場慣れしているのか、何もかもが初めてで混
乱しているリョーマには勝ち目はない。
「ふぁ……あっ…」
口腔を好き勝手に蹂躙され次第にリョーマの身体から力が抜けていき、無意識に崩れ落ちるのを止
めるために原因である人物の服を弱弱しい手で掴んでいた。そこでようやく相手は名残惜しげにリョ
ーマの唇を解放した。
「……っアンタ何す!! ……け…ご?」
「俺以外の誰に見えんだよ。あぁ」
目の前にいたのは会いたかった跡部景吾その人だった。
「なん……で?」
「何ではこっちの台詞だ!! 俺様が態々地下牢まで迎えに行ってやったのに何でいねぇ!! てめ
ぇがどれだけ危険か分かってんのか!!」
「!? そうだ」
跡部に怒鳴られ、ようやく現在の状況を思い出した。神官に見つかるところだったのだ。そして見
つかったと思った瞬間跡部に抱きしめられ、更にキスまでされたのだ。そんな場面を赤の他人、それ
も自分を捕まえようとしていた者に見られてしまった。顔を羞恥で赤くしたり、見つかったことで青
くしたりと一人百面相をしながらその人物がいるだろう方向に顔を向けるが、そこには誰もいなかっ
た。
「あれ?」
「探しに来た奴なら戻ったぞ」
「えっ? でも……」
「騒がしくねぇってか?」
「うん」
「見つかってないからな」
「???」
肝心な単語を飛ばす跡部の簡潔な言葉はリョーマには理解できず、疑問が増えるばかり。
仕方ないとばかりに跡部は手短に説明するのだった。
「アイツらにはまだ見つかってねぇから心配するな。で、なんで見つからなかったかだが、簡単に言
うと術を使ったからだ」
「術? ……って何?」
「言葉のままだ。催眠術とか念動力とかそんなモンだ」
「……使えんの?」
「だから見つかってねーんだろ」
「あ、そっか……」
跡部の言葉に妙に素直に納得したリョーマ。しかし跡部にはそれが納得いかない。
「…………お前理解してねーだろ」
「できるわけないじゃん!」
当然のように反論するリョーマにやっぱりかと跡部は頭を抱える。しかし、ここで無駄な時間を費
やすわけにはいかないのだ。
「分かった。取りあえず納得しろ」
「だから、できるわけないって……」
「今はこんなことに時間潰してる暇なんかねーんだよ。こんなとこから早く退散すんのが先決だろう
が。それとももう一度牢屋に入れられてーのか?」
「んなわけないじゃん……」
「だったら今は俺様は術が使えるってことだけ理解してろ。……行くぞ」
「家に帰ったら教えてよね」
「あぁ」
気にならないと言えば嘘だ。けれど跡部が今は話す気がないのは言葉の端々から感じられる。後か
ら教えてくれると言うのだ今は素直に従っておこう。もし、はぐらかそうものなら色々と報復すれば
いいだけなのだから。自己完結すると跡部の隣に並ぶのだった。
「……」
「何?」
「……」
何か言いたそうな眼差しを向ける跡部だが、返事は返ってこない。
「言いたいことあるなら言えば? てか、景吾その服どうしたわけ?」
「今更気付くな」
「だって……」
歳相応に膨れ面を見せるリョーマに跡部はこんな状況だというのに脱力してしまう。
「何? もう限界なの?」
「んなわけあるか! お前の状況を全く理解してない態度に力が抜けたんだろうが。ったく」
「何人のせいにしてんのさ。で、その服どうしたんだよ。もしかして盗んだとか?」
「千石のやつじゃあるまいし、何で俺様がそんなことしなきゃいけねーんだ! これも術の力だ!!」
余りの発言に跡部すらもここがどこだか忘れて、思わず叫んでしまった。
(ちっ! 一応結界を張ってあるから見つかる心配はねーけど……。全くコイツといると調子が狂っ
ちまうぜ)
リョーマの前だとどうしてもいつもの自分を保てない自身に少しだけ情けなくて溜め息をつく。
「ねぇ、景吾。キ……」
「ちょっと黙ってろ」
言われると同時に跡部の腕により背後へと庇われる。
「……」
「……」
目の前の通路を数人の神官たちが駆けていった。
いまだ見つからないリョーマを上から怒鳴られながら必死になって探している。リョーマは口を噤
むと同時に呼吸も止めていた。
「っはぁ〜」
彼等が見えなくなると苦しさが襲ってきて、呼吸を再開するのだった。
「そこまでしなくても見つかんねーよ。俺様を誰だと思ってやがる。静かにしてりゃ、あんな力もな
い奴らには絶対に見つからねぇ」
「……うん」
「だからといってのんびりするわけにはいかねーからな。急ぐぞ」
それから暫くは会話らしい会話をせず、静かに出口を目指していた。
目指していたつもりだったが、5、6人の神官が見張りとして立っている入り口だろう門が見える
ところまで来ると跡部は横道にそれた。
「ちょ、ちょっとどこ行くの? 出口は……」
「まぁ、あそこを突破するのも悪くはないが、万が一ということもある。こっちに俺が入ってきた抜
け道がある。そこから奴等に気付かれない内に逃げるぞ」
◆◆コメント◆◆
漸く再会。
そして、いきなり襲われるリョーマ(笑)
心配だったんです。もの凄く。
本当はこんな展開ではなかったのですが、
リョーマが暴走したので、つられて跡部も
暴走したという次第です(−_−;)
これのおかげ(?)かどうかは分かりませんが、
二章が完結すれば、番外編を書こうと思っています。
たぶん一話で終わるはずです……
不安は拭えませんが(死)
2005.09.27 如月 水瀬