君という光 第二章 16


  





 そこは自然の光が差し込む窓もない、荒削りな石で囲まれた密室。

 空気は澱み、じめじめとし、寒さが一際目立つ暗い暗い部屋。

 そこにあるのはこの部屋に似つかわしくない豪奢なベッド。布やマットは破れ、こんな場所に置い

ているからだろう金属の部分はシルバーであっただろうに錆付いて赤茶色に変色している。が、それ

らを清潔なものに取り替えればそのベッドは身分の高い人々が所有するものとなんら劣らないものに

生まれ変わるだろう。元々の素材が良いものだから。

 その造りだけは高価で、現在憐れともいえる状態のベッドに転がっている者が一人。





「……」

 不機嫌な顔をして、仰向けに転がった状態で闇しか見えない天井を睨みつけている。唯一の灯りは

小さなランプ一つしかないので、ランプの周囲しか照らし出されていない。ほぼ暗闇の中で何故かそ 

の人物の瞳の色は鮮明に見て取ることができた。青灰色<ブルーグレー>の綺麗な色を……。

「っし!」

 暫く天井を睨んでいた人物リョーマは決意を宿した瞳で一度瞬きすると、勢いよくベッドから起き

上がる。表面上は唯一の出入口である鉄の扉に近付き運よく開かないかなと都合のよい考えをするも、

そんなに甘いはずがない。当然逃走を阻むが如く鉄の扉は鍵がしっかりかかっていた。

「ま、トーゼンだけどね。展開的にこーゆー部屋ってどっかに隠し通路があるんだよな。どの辺から

攻めようかな?」

 どことなく楽しそうに、あるかも分からない隠し通路を探し始め、畳四畳ほどの部屋を動き回る。

牢に放り込まれるのも3度目になるともう開き直るしかない。落ち込んでいても事態はなんの変化も

ありはしない。あったとしても悪い方向にしか作用しないだろう。それは痛いほど分かった。ユキの

言葉を信じれば跡部と千石もここに飛ばされて(正確には自らの意志で来たのだが、当然リョーマは

知る由もない)この世界にいるという。早く合流して元の、自分たちの日常に帰りたかった。その思

いを力に変えてリョーマは立ち上がった。

「あ! なんか動きそ…………っ…たぁ。いきなりだし……」

 荒削りの石で出来た壁を調べ、やっと見つけた仕掛け。

 慎重にことを運ぶはずが少し触れただけでそれは作動した。

 子ども一人分ぐらいの面積の穴が開いたと思ったら体勢を崩しそこへ転がりこんだ。リョーマが転

がると同時にその穴は元の何事もなかったかのように閉じられたのだった。

「ぼんやりとは見えるけど、真っ暗じゃん……」

 ランプを取りに戻りたかったが、壁はしっかり閉じられており、不可能なことが分かると重い溜め

息を吐いた。進むしかない。後戻りは出来ない。

 いくら闇になれてきた瞳といえどもぼんやりとしか見えないものは見えない。時間はかかろうとも

手探りで一歩一歩進むのが確実だった。







「行き止まり? 出口がないなんてこと…ないよね……」

 入った時と同じように、視界は先ほどよりも随分悪い状態だが、再び手探りで仕掛けを探し始めた。

「……見えない。…………どこだよ!!」

 苛立ち任せに壁を叩いたら、お約束通りに壁は静かに動きだした。

「…………アリエナイ」

 呆れたため零した言葉はカタコトだった。

「っ!?」

 暗闇に光が差し込み当然ながら瞳が慣れないため、あまりの眩しさに目を凝らす。

 そこは緑が一面に広がり、その中心には涼しそうに透き通った水が溢れ続ける小さな噴水があった。

そうリョーマが辿りついた場所は大神殿の中庭の周りからは木々に覆い隠されたようになっている一

角だった。

 周囲に細心の注意を払いながら闇から光の射す世界へと足を踏み出す。そして、辺りをキョロキョ

ロと確認しているとガサッと足音が耳に入る。一瞬大きく肩を震わせると相手に気付かれないように

その場をあとにするのだった。











「感で行くしかないか……。なんとかなるだろ」

 リョーマが去ったその場に小さく響いた言葉。それは跡部の零した呟きだった。












      ◆◆コメント◆◆
       リョーマが開き直った?(笑)
       凄く楽しそうです。
       管理人もこのあたりはスラスラと書くことが出来、楽しかったです♪
       
       そして、リョーマ&跡部残念!!
       すれ違いでしたね(死)
       ほんとすぐ近くにいたのに……
       原因は跡部が気付いたアレがあるからです。はい。
       アレは書く機会があればどこかで説明しますが、別にどうでもいいこと
       なので、省く可能性大です(死)

       さぁ、次こそは再会できるのでしょうか?
       二人の暴走度合いによると思われます……
       

             2005.09.10  如月 水瀬