君という光 第二章 11


  






「お告げの少女を渡してもらおうか!!」





 突然の乱入者はそう叫びながら遠慮なくパオの中に入ってきた。

 乱入者の装いは上は着物で、下は袴。そのどちらもが真っ白という所謂神社の神主の格好そのもの

だった。



(……なんで袴? ここって異世界だよな……?)



 考えに耽っているリョーマはその白い袴を着ている男たちが自分を睨みつけていることに気付いて

いない。

「そいつだな」

 まるで汚らわしいものを見るような目つきでリョーマの全身を確認する。そして、男の視線はリョ

ーマのアーモンド型の大きな瞳で止まった。

「確かに青灰色だな。気味の悪いくらい綺麗な……」

 最後の言葉は無意識だろう。男はリョーマの瞳に深く魅入られていた。が、一瞬後には我を取り戻

すと男の周りにいた少しクリームがかった袴を着た数人の者に命令した。

「連れて行け!」

「「ハッ!!」」

「ちょっ、何すんだよ!?」

「ちょっと待って下さい」

 数人の男たちがリョーマを拘束しようとし、それに当然の如く抵抗するリョーマ。その乱暴な行為

を止めるべくユキは先ほど自分たちが確認した事実を言葉にする。

「その方は、少女、女性ではありません。れっきとした男の子です。ですのでお告げの人物ではあり

ません。たとえその方の瞳の色が青灰色だとしても、性別が異なるという揺ぎ無い事実があるのです

から、その手今すぐを離して下さい」

 相手に怯むことなく堂々と言い放つと、うろたえたのは男たちの方。

 拘束しようとした者たちは身分が上であろう一番最初にパオに乱入した男に視線を集めた。

「報告してきたのはお前たちだぞ」

「確かに。けれどあの時はまさかこのような辺境の村にお告げの人物が現れるとは思っておりません

でした。それが突然現れ我々も確認を怠り、報告だけでもと、つい先走ってしまったのです。我らも

確認したのはつい先ほど。神官様方に再度の報告をする間もなく神官様方の方が先に来られてしまっ

たということです。お手数をお掛けして誠に申し訳なく思っておりますが、本当に人違いでございま

す。どうかその手をお離し下さいませ」

 ユキに代わり長老が男、神官にこれまでの経緯を説明し、リョーマが男でお告げの少女とは違うと

いうことを告げ、誤った報告をしてしまったことに対する謝罪を述べる。それに続いてライとユキも

頭を垂れた。

「フンッ。いいから連れて行け!!」

「え!? ちょっと。俺は男だって言ってるじゃんか!!」

 長老たちの言葉を完璧に無視して神官の男は連れの男たちにリョーマを連れて行くように再度激を

飛ばす。

 リョーマも再び暴れるが、男たちの方が体格も人数も勝っている。抵抗はあってないようなものだ

った。

「離せ――――!!」

「大人しくしろ!!」

 リョーマの叫びは叶うことなく、無常にも連行されてしまうのだった。

 しかし、目の前で人違いの人間が、自分たちの間違いの所為で神殿に連れて行かれるのを黙って見

ていられる三人ではなかった。

「ちょっと待って下さい。先ほども言ったように彼は少年です。少女じゃありません。なのにどうし

て連れて行くのですか!?」

「それはもう聞いた。しかし、クリアードの大神官様から大神殿に連れて来いと伝令があったのだ。

大神官様の言葉は神の言葉と同じ。それに逆らうわけにはいかん。お前たちも神の罰を受けたくなけ

れば、あの者のことは忘れよ。ただ、お告げ通りに青灰色の少女が現れたということにしておくのだ。

それでこの国が禍から免れればたった一人の犠牲など取るに足らんものではないか。しかも我国の者

ではなく異世界より来たりし者。何も文句などつけようがない」

 余りにも非情な言葉。

 それを平気で口に出来るこの男は本当に神官なのだろうか?

 三人の心は同じことを感じていた。

 神官の男は非情な言葉を吐き捨てると、用は済んだと硬直している三人を尻目に入ってきた時と同

様に乱暴にパオを出て行った。





(既に神殿には手が回っているのか……。やれるだけのことはやって、後は彼等に任せよう)











「何なんだよアンタ等!! アノ人たちも言ってただろ。俺は男だって!! アンタ等が探してんの

は少女なんだろ。いい加減離せよ!!!」

 強制的に神殿に連行されたリョーマは盛大に暴れ、叫び回るが神官たちはただ煩わしそうにするも

リョーマの言葉をまともに聞くつもりは全くないようで、暴れるのを抑えながら所謂牢屋のような薄

暗く、一応眠る場所だけにボロボロの布とマットのようなものが置かれた狭い部屋に容赦なく押し込

めた。

「っ……なんで俺がこんなトコに入れられなきゃいけないんだよ!! ここから出せ――!!」

「煩い! 静かにしてろ。どうせすぐにここからは出られるだろ」

 鍵がしっかりかかっているか確かめながら、この部屋の監視役の男は意味深な表情で答えた。

「……どーゆーコト?」

「言葉のままだ。まあ、お前にしてみたらここにいる方がある意味マシかもな。大人しくしてろよ。

そうしたら俺は別にお前をどうこうするつもりはない」

「アンタにはなくても、他の奴はどうかわかんないんでだろ。そんなとこにいられるか!!」

「ま、そりゃそうだわ」

「…………ねぇ」

「ん?」

 どうせ出れないなら昼寝でもしようかとも思ったのだが、こんな所ではあまり眠りたくないのが素

直な感想。なので、この男は見張りのためここから当分は動かないと考えられ世間話程度に少し会話

をしてみることにした。その際に何か逃げるための情報が聞き出せればラッキーかな?と今はいない

千石のようなことを思いながら。



「神のお告げって、探してるの少女なんだろ? なんで俺なわけ?」

 そのことだけは、いや本当はここにいること自体が納得できないのだが、一番納得のできないそれ

はどうしても聞いておかなければ気が済まない。たとえ答えを貰ったとしても納得できるかどうかは

多いに疑問だが……。

「上の考えは下っ端の俺には分からん。俺も可愛い女の子が来るものと思ってたのに、実際連れて来

られたのは男のお前だからな。ちょっと落胆してんだよ。まあ、でも顔立ちは綺麗だよなぁ。背は低

いから女の格好したら美少女にならなくもねぇよな」

 リョーマの顔を穴があくほどジッと見つめながら零した言葉は冷静になろうとしているリョーマの

心を十分に揺さ振るもの。もちろん怒りの方向に。

「アンタ、ケンカ売ってんの?」

「いや。思ったことを言ったまで」

「それがケンカ売ってんだよっ!!」

「そうなのか? 俺は正直者だから、正直な感想しか言えねーんだよ。まあ、そう怒るなって」

 飄々とした態度が気に入らない。

 まるでどこかの誰かのようだ。

 精神的にどっと疲れたリョーマはこんなところできちんと休めるかは分からないが、眠りの態勢に

入るのだった。













      ◆◆コメント◆◆
       久し振りの続きです。
       リョーマ牢屋に入れられてしまいました(笑)
       監視役の方となかなか楽しい会話を繰り広げております。
       最近リョーマ叫んでばかりです。
       これからも叫び通しです。きっと……

       そして、やはり話が進まない(死)
       なんで予定通りいかないのでしょう?
       これからは色々と大変な展開がある予定なので
       楽しく、サクサクと書いていきたいです。
       ではでは


             2005.07.27  如月 水瀬