時間は少々遡る。
何者かに殴られ意識を失ったリョーマはようやく目覚めようとしていた。
(……何? …………痛っ…誰だよ……)
いまだ、完全に意識を取り戻していないリョーマの頬をペチペチと軽く叩いて起こそうとしている。
もう少しだというのにまだ目を覚まさないリョーマに叩いている者はイラつきを感じ始めていた。
「っ〜〜いい加減に起きろ!!」
叩くのを止め、乱暴にリョーマの身体を床に投げつけた。
「っ……ナ…ニ?」
投げつけられた衝撃によりやっとリョーマは覚醒した。けれど、自由に動くことは出来なかった。
痛む身体をなんとか起こそうとするのだが、手足が意のままに動かない。
「……!? 何で縛られてるわけ?」
自身の現状を確認してリョーマは目を見張る。そして、そこでやっと自分の周りに幾人かの気配が
あることに気付き床に転がったまま、上目遣いに気配の人物を確かめる。
「アンタたち誰?」
「我等の国に禍をもたらすお前などに名乗る名前はない」
「はぁ?」
起きたら両手両足は縛られている。更にわけの分からないことまで言われ、リョーマは開いた口が
塞がらなかった。
「ライよ。この者は異界より来たりし者。この世界の事情など分かるはずもないであろう。自身が我
等の世界にとってどのような存在であるかなどもってのほかじゃ」
「しかしっ!!」
激高する青年を落ち着かせる老人の声はとても冷静なものであるとともに、容赦のない現実を知ら
せるものであった。
「この者の後の処置は我等のあずかりしるところではない。全ては神殿と神のみが執り行う。我等の
するべきことはこの少女を捕らえ、無事神殿の方に引き渡すことのみ。それ以上を行えば罰を受ける
のはこちらじゃぞ」
「……そうですね」
老人の言葉にようやく納得し、落ち着きを取り戻した青年。
けれど反対にリョーマは疑問のみが増えるばかりで、混乱を極めていた。
「ねぇ。さっきから二人で勝手に話してるけど、アンタたち一体何の話してるわけ? それになんで
俺がこの国に禍をもたらすわけ? 俺はただ家に帰りたいだけっス!! だから、知ってんなら帰り
方教えて!! そもそも神殿って何? 俺に何の関係があるわけ?」
「…………“俺”?」
「そうだけど何スか?」
何故目の前の彼らが“俺”という一人称に驚いているのかが分からない。
自分は物心ついた時にはすでに“俺”と言っていたのだから。
(そういえば、この人たちさっきなんて言ってた? 確か……)
先ほどは流していたが、少しだけ気になった単語が一つ。
それを思い出そうとすると反応は彼等の方が早かった。
「お、お前まさか!?」
「?」
「……“男”…なのか?」
「……っ…俺は生まれてから今までずっと男だ!!!! アンタたちの目は節穴か!!」
女と間違えられたことに腹を立てて喚き散らす。
元いた世界でも間違えられることはたまにはあった。けれどここまではっきりと言われたのは初め
て。縛られていなければ、殴りかかっていたことは間違いないだろう。
「……ライよ。ユキを呼んできなさい」
「ユキ…ですか?」
「そうじゃ。ユキに確かめさせる」
「分かりました」
頷くとライは静かにこのパオを後にした。
「何するつもりなんスか?」
「お主が本当に男かどうか確かめるだけじゃ。男であれば、我等は大変な間違いを犯してしまう。お
主をどうするかはそれからじゃ」
老人の瞳には強い意志が宿っており、何を言っても無駄だと分かったリョーマは大人しく“ユキ”
というものを待つことにする。
身の潔白が証明されることは自分自身が一番良く知っているから。
この世に生を受けて13年。
自分はずっと男として生きてきたのだから。
「どうだ?」
「この人は間違いなく男ですよ。確かに瞳の色はお告げと同じ青灰色をしているけど」
ライが連れてきたのはリョーマよりも少し年上の、跡部や千石と同じくらいの歳の線の細い少年。
宵闇色の髪に瞳は極上のサファイヤをはめ込んだかのように綺麗な深い蒼だった。ユキの言葉にライ
と老人は落胆と安堵を交えたなんとも言えない表情を見せていた。
「だから、俺は最初から男だって言ってるじゃん!!」
間違いだと分かると当然リョーマの反撃が始まった。
突然殴られたり、縛られたりして、それが間違いでしたでは納得がいくはずがない。
「うん、ごめんね。ほら、先ずは兄さんも長老様もこの人に謝らないと」
「済まなかった!」
「早とちりをして誠に申し訳ない」
ユキの言葉に促されライとこの村の長老は即座にリョーマに頭を下げた。喧嘩ごしの相手ならいつ
もの態度を取るだけなのだが、大人二人に深く頭を下げられるなどあまり経験したことのないリョー
マは対応に困り果てた。
しばらく考えた末、溜め息を吐くと先ほどまでの怒りを霧散させるのだった。
「………………もういいっスよ。でも、理由ぐらい教えてくれません? あと、この縄解いてくれな
いわけ? それと、さっきも言ったけど俺は自分の家に帰りたいんス。帰り方知ってたら教えて欲し
いっス」
今すぐにして欲しい要求を述べると、両手両足を縛めていた縄がまず取り去られた。時間的にはそ
れほどではないのだろうが、両手足首には縄の擦れた赤い痕がついていた。
「ごめんね」
痛々しげなその状態を見て、再び謝罪の言葉を発するとユキは冷たく濡らした布を薬草のようなも
のとともにきつくなり過ぎない程度の力加減で患部に巻きつけるのだった。
「っス」
「どう致しまして。で、君の質問の答えだけど一週間ほど前に神様からのお告げがあったんだ」
「お告げ? 何ソレ?」
例え親父が生臭坊主といえ、興味のないものには関心の欠片もないリョーマはユキの言葉に疑問が
増えるだけだった。
「この国は神信仰がとても強いんだ。中心はクリアードの町の大神殿で、そこの大神官様のみが神様
の声を聞ける。それが神のお告げで、今回の内容というのが簡単に言うと青灰色の瞳を持つ異世界の
少女を神の元へ差し出さないと、この国に禍が起こるというものなんだ。だからみんな躍起になって
その青灰色の瞳を持つ少女を探している」
「俺、男だけど?」
「うん、兄さんは青灰色の瞳ということだけに集中してしまったみたいだね。だから君の性別は後回
しになって……何だろう?」
外が急に騒がしくなったため、ユキは話を中断させた。
そして、確認のために入り口の布を捲ろうとするとユキよりも先に何者かの手によって布は乱暴に
捲られた。
「お告げの少女を渡してもらおうか!!」
威圧的なだみ声がパオの中に響いた。
◆◆コメント◆◆
やっとリョーマさん復活です(笑)
起きたら縛られていた……
この事実を知ったら跡部とキヨはどうするんでしょう?
爆発しそうですねぇ。確実に(笑)
夢に出てきたらどうしよう?
ちょっとドキドキしながらベッドに入る今日この頃♪
何やらまたまたリョーマさんは移動になるかも?
目まぐるしい展開をサクサクと書きたいのですが、
管理人の拙い表現能力ではこれが限界で、ダラダラと書き連ねて
おります。
いつになったら二章は終わるんでしょうか?
今半分を超えたぐらいです。(当初のプロットで)
本来だったら最後の締めに入っている予定だったのにまだまだ先は長い。
その上、昨日の日記にも書きましたが只今スランプ中♪
……どうしましょう?(死)
2005.07.13 如月 水瀬