物事は突然変化が訪れる。
それは跡部にしても例外ではなかった。
闇が夜を支配している時間は静かだった町が、闇から光へと支配者が交代しようという時に突如と
して喧騒が襲った。唯一の窓から早起きの人々の噂話が聞こえてきたのである。
「何か起きたようだな……」
呟くとベッドから身を起こした。
顔を冷たい水で洗いサッパリすると、テーブルに乱雑に投げていた上着を羽織ると新たな情報を仕
入れるべく階下に降りていく。まだ、日も昇りきっていないというのに1階には結構な数の人が集ま
っていた。
「おはようございます。昨日はゆっくりとお休みになれましたか?」
「まあな」
誰かに話しかけようと動く前に、宿の主人が先に声を掛けてきた。全くの初対面より、昨日少しだ
け話した彼の方が幾分か話しやすいため、彼から情報を聞きだすことにする。
「で、何があったんだ?」
「どうやら探し人が辺境の小さな村で見つかったようですよ。数刻前に知らせがあったようです。そ
れを耳聡く聞きつけた者が一人に話して、後は鼠算式に広がっているということです」
「本当に見つかったのか?」
「その者の情報によると確かにその人物は青灰色の瞳をしていたそうです。なので、すぐにお告げの
人物だと分かったらしいです」
跡部は違和感を感じずにはいられなかった。
主人の言葉は何かを隠している。誤魔化している。
その証拠に瞳が微かだが不安定に揺れている。視点が定まっていないのだ。
それは跡部だからこそ気付けたと言ってもいいほどの本当に微かな動きだった。
(アレはやはり正夢だったのか。しかし、何故青灰色の瞳をしている? リョーマの瞳の色は黒色の
はずだ……。解けかけているのか? だがアイツの力は…………。いや、それはまだ時期尚早だ。そ
れよりもリョーマは男だ。なのに何故捕まる?)
「おい。知らせがあったと言ったな。どんな手段で知らせてきたんだ?」
「神殿関係者のみ使用できる鷹ですよ。それが一番早い連絡手段ですからね」
つまり、捕まえた人物と捕まえた地域の者たちにしかその人物を見ていないのだ。
所詮噂は噂でしかない。疑問は疑問を呼ぶのだ。実際に自身の目で見て確かめるのが何よりも正確
で確実な情報なのだ。まだ見つかったのがリョーマとは限らない。けれども可能性が全くないとは言
い切れない。むしろ確率は高いのだ。
「そいつはどうなるんだ? 見つかった場所の神殿で神の元へ送られるのか?」
「いえ、ただの罪人ならばそういう処置もあります。けれど今回は神のお告げがあってのこと。大神
殿にて儀式を執り行うはずです。ですので、その人物はここに連れて来られるでしょう」
「で、吉日を大神官が選んで儀式ってわけか……」
跡部の言葉におそらくと頷くと、新たな客が宿の扉を開いたため、主人は失礼しますと一言詫びる
と、側を離れるのだった。
杞憂ならいい。
だが、もしもの時のために準備をしておく必要性は大だ。
先ずは準備。そして彼の人物が来たらリョーマかどうかの確認。
リョーマであればどんな手段を用いても必ず取り戻す。反対に人違いであれば他の町に移動する。
(あぁ、一応千石の奴も探さねぇとな。大丈夫だとは思うが……)
件の人物がこの町に到着するまであと数日。
果たしてその人物はリョーマなのか、そうでないのか。
◆◆コメント◆◆
どうやら跡部はこの町で待機する模様。
本当はすぐにでも飛んで行きたいんだけど、
行き違いになったらそれこそ大変ですからねぇ。
けれど、連れてこられる人物はリョーマなのでしょうか?
それとも違う人物なのでしょうか?
まあ、その時の管理人の気分によると思います?
取りあえず、
次はリョーマに戻る予定です。はい。
いいかげん、彼を意識不明の状態から回復させてあげなきゃ、
管理人の身体が危ないので……
2005.07.03 如月 水瀬