町は活気に満ちていた。
入口の門から真っ直ぐに伸びる大通り沿いに大小様々な店が立ち並んでいる。大通りから左右にそ
れると人々が生活する居住区が見える。真っ直ぐ大通りを進むと町の最奥の中心には、城や豪華な建
物ではなく、厳かなけれど町の3分の1の面積は占めている壮大な神殿が建てられていた。
真っ白い岩で造られたそれはとても強い神の力に守護されていた。力の持たない者には分からない
が守護結界が神殿全体を包むように張られている。
そう、神殿だけを……。
「力がないのか、わざとなのか……」
跡部には鮮明に結界が見えていた。けれど、それは跡部の機嫌を悪くさせるだけだった。
「取りあえず宿か。いい情報があるといいんだがな……」
町に入る唯一の門には当然ながら外敵から神殿、民衆を守るため門番が置かれていた。何かの力で
服を変化させた跡部を不審がる者などいない。ただ、めったにいないほど容貌が整っているため注目
は浴びていた。
門番は当然男性である。その男性からでさえも視線を集める彼が異性つまり女性の視線を集めない
はずがなかった。町に入るなり、跡部は人々の様々な視線の的となった。嫉妬、恋慕、憧れなど……。
「最近妙な服を着たヤツがいたなどの情報はないか?」
宿兼酒場もかねていた店はまだ昼間だというのに、既に酔っ払っている者も数人いた。
1階は宿の受付と酒場、2階3階が宿となっているようだ。
宿帳に記帳しながら問いかけると主人だろう中年の男はすぐに答えを返した。
「ああ、あなたも例のお告げの少女を探してるんですね。ここ最近あなたと同じようなことを尋ねる
方が多いんですよ。商売がら様々な情報が飛び交いますからね。こういう場所は」
にこやかに笑いながら話す内容は跡部にとっては笑って聞き流せるものではなかった。
(お告げだと……?)
「お告げというのはどんな内容なんだ? ずっと旅をしていて、つい先ほどこの町に来たばかりなん
だが」
「おや? そうなんですか。お告げがあったのは一週間ほど前になります。このクリアードの町の中
心である大神殿の大神官様が神のお告げを聞いたそうです」
(大神官ねぇ……うさん臭ぇ……)
あたかも自分が神の声を聞いたかのように宿の主人は自慢気に話す。正直ウザかったがリョーマの
ためだと言い聞かせ、続きを促す。
「で、内容は?」
「『青灰色の瞳を持つ者は禍を宿す
禍は強大にして影響は全てのモノに
幸いの術は一つ
青灰色の者を我の元へ』
というものです。つまり、青灰色の瞳を持つ少女をイケニエとして神に捧げろということです。でな
ければこの国に禍が降りかかってしまうので、国中の者たちが躍起になって探しているのですよ」
「聞いていいか?」
「はい」
「どうして青灰色を持つものが少女と断定されているんだ? 男かも、もしかしたら大人かもしれな
いだろ?」
普通の感覚で言えば跡部の疑問は当然のことであった。しかし宿の主人はあっさりとその疑問に答
えた。
「この国ではイケニエ=少女と昔、そうこの国ができた時からずっとそうなので、その考えが当たり
前の概念となっているのです。そして、この国に青灰色の瞳を持つ者は存在しません。なので神殿や
少女を探している者たちは異国からやって来る者を監視しているのです」
「そうか……その少女はまだ見つかっていないんだな?」
「ええ。見つかればすぐにでもこの大神殿に連絡が入るはずです。そして、そうなればこの町中にそ
の話が飛び交うはずです。けれどそんな話はまだ誰もしていません」
「つまり、見つかってはいないと」
最後の言葉を跡部が述べると主人はゆっくりと頷き肯定を示した。
結論が出ると跡部はお告げの内容について引っ掛かる箇所がいくつかあり、そのことについて自分
の考えをまとめるため主人に建前上のお礼を言うと割り当てられた部屋に行くのだった。
部屋に入ると、使い込まれたシンプルな木製のテーブルに服と一緒に創った路銀の入った簡単な荷
物を投げ置き、自身は部屋の半分の面積を占めている安宿らしいあまり寝心地の良さそうでないベッ
ドに乱暴に腰かけた。
「まさか青灰色の瞳とはな……」
跡部の指は無意識にピアスへと伸ばされた。
マリンブルーから青灰色に変化した宝玉のついたピアス。
青灰色は跡部にとって特別な色。
守るべきものと力を与えてくれるもの。
それがこの異世界では災いを齎すものとされている。
当然気に入らない。
腹立たしい。
何よりも大事なものを穢され侮辱されたことと同意だった。
「こんな胸糞悪ぃトコとっとと退散するに限るぜ。取りあえず、あいつらは“少女”を探してんだか
ら時間は稼げるか……。殴った奴も男だと分かれば間違いだと気付くだろう。容姿が容姿なだけに不
安は拭えないが、アイツの運を信じるか。千石の奴も動いてるだろうし、とにかく今リョーマがどこ
にいるかだな」
重要な情報は今の段階ではもうないだろうと確信していたが、町の地理を確認するために町をぐる
っと一回りして、眠ることなど出来ないだろうが、明日からに備えてその日は早くからベッドに横に
なった。
◆◆コメント◆◆
予定が狂っております(笑)
まことに狂っております。はい。
思うように話が進まず、一話が何故か予定より長く
なってしまう……。
次も跡部視点での話です。
早くリョーマに視点を戻さないと跡部が主役になってしまう!?
2005.06.30 如月 水瀬