君という光 第二章 7


  





(……景吾、キ…ヨ…………)

(リョーマ!? てめぇ! 人の……に何しやがる!! その汚い手を離しやがれっ!!)

 叫んでみても相手は全く怯まない。跡部という存在にみじんも気付いていないのだ。

(夢なのか? …………いや、違う。確かに夢だが、本当にアイツは……っ)

 止められないと分かっていても、跡部はリョーマをかばうために抱き締めた。が、男が振り上げた

凶器は跡部の身体をすり抜け、リョーマの頭を力いっぱい殴りつけたのだった。

(リョーマ!!)

 その瞬間、眩い光が視界全体を照らし、跡部は眩しさに目を閉じるしかなかった。リョーマがどう

なったのか確認したかったが、強制的に意識を目覚めへと導かれていった。













「リョーマ!!」

 夢と同じ叫び声を上げて跡部は目覚めた。

「クソッ……」

 最悪な夢の上、焦りと必死だったため、嫌な寝汗をかいており不快感がまとわりついていた。

「どこだ、此処は……」

 跡部も自分が置かれている状況を正確に知るために、まずは冷静になり取れるだけの情報を集める

ための行動を開始した。そう、正確な情報を素早く手に入れないと、リョーマの身が危険なのだから。

けれど焦るわけにはいかないのだ。失敗は絶対に許されない。





 辺りは漆黒の闇に支配されていた。

 闇以外余分なものはないというほどで、物音も跡部が動くと同時にするぐらいで、本当に闇と静寂

に囲まれていた。

(この感触は……岩か? だとすると此処は……)

 思考をまとめていると、暗闇に慣れ始めた目により、辺りが確認出来るようになった。

「洞窟か……」

 ゴツゴツした岩肌に囲まれているが、微かに風の出入りが感じ取れる。出口からそう遠いわけでは

ないようだ。

「こっちだな」

 風の方角を確認した跡部は出口に向かって足を進めた。





 ほどなくして、出口が見えた。直ぐに洞窟から出ると思いきや、跡部は少し手前で立ち止まった。

そして静かに目を閉じると、音にならないほど小さな声で何かを呟く。が、何か起きるわけでもなく

一切変化はなかった。

「ちっ、忘れてたぜ」

 呟くと瞳と同じ色の宝玉がついただけのシンプルなピアスを外す。そして、再び単語を一つ呟くと

手の平のピアスの宝玉がマリンブルーからグレーがかったブルー、青灰色に変化した。ソレを再び付

け直し、単語ではなく単語の連なり、つまり短文を唱え直すのだった。

 今度こそ、望んだ通りの変化がおとずれ、跡部の来ていた制服は一瞬にして全く異なるものに変化

した。黒のタートルネックに半袖の上衣。上衣とタートルネックのシャツは腰で黒と白の布をベルト

代わりに緩く留められており、比較的長めに作られている上衣がおしりをスッポリと隠している。ズ

ボンは上衣と同じ濃いグレーで比較的ゆったりとしたなんの飾りもないシンプルなもの。それにショ

ートブーツといういでたち。そう、これがリョーマが違うと言ったこの国での庶民の衣服だった。





 跡部は一度だけ自分の格好を確認すると、視界の先に小さく見える白い壁に向かって歩き始めた。

恐らくは大きな町、この国の中心となる都かもしれないとあたりを付け、何か重要な情報が手に入る

かもしれないと少しの期待をして歩くのだった。











 千石の心配など一切ない。

 リョーマのみである。

 彼なら自分で何とか出来ることを知っているから。

 自分と同じ力を持ち、自分と同じ目的を持ち、自分と同じ大事なモノがあるから。

 だから、心配はしていない。信頼しているのだ。不本意ではあるが。

 彼しかいざという時頼れる者はいないのだ。

 早く合流するのがベストなのだが、力がない(正確には違うのだが……)リョーマを見つけること

が二人の中の最優先事項なのだから。
















      ◆◆コメント◆◆
       跡部様はどこに行かれても、冷静ですね。
       けれど、リョーマのこととなると話は別です!
       普段の氷のような冷めた態度はどこへやら。
       なりふり構わず熱くなるでしょう♪
       片鱗はもう見えてますしね(笑)

       次はキヨかと思いきや、まだ跡部様が続きます。
       何か力も持ってるみたいですし、跡部様はキヨを信頼してるみたいですし、
       早くリョーマと会えることを願いますけれど、
       どうなるかは神のみぞ知る……ということにしておきます(^_^;)

             2005.06.20  如月 水瀬